(2018 PR Yearbookより)

広報出身でアサヒグループホ−ルディングス会長兼CEO という、異色の経営者、泉谷直木氏が、広報・PR パーソンのために語った提言を紹介する。それは、まさに、泉谷氏にしか言えない「特別で示唆に富んだ」メッセージである。

2018 年3月1 日、PR プランナー資格制度創設10 周年記念 特別シンポジウム(主催:公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会)基調講演より再構成。肩書表記も取材当時のものである。

  • 泉谷直木氏 アサヒグループホールディングス 会長兼CEO

1.何が、PRの基本なのか?

私は、広報・PRパーソンの仕事の基本中の基本は、「情報収集」だと思っています。

もし、情報収集をしないで、ここへ出てきて、私の過去の経歴に沿ってですね、
こういう広報の仕事をして、こういう経験をして、我が社の業績はどうで、と話をすれば、
それはそれで済むのかもしれませんけど、
それでは今日のお客さまとまったく話が合わないし、
私にとってもみなさんにとっても無駄な時間を過ごすことになる。

2.「ない」を言えない社長の仕事

社長、会長の仕事というのは、「知らない」「できない」「わからない」の3つの「ない」を言えないんです。

スピーチのときでもそうですね。
終わったあとに、「つまんないなあ」と言われないように努力をしなければならない。

したがって、どうやってストーリーを組むか。
情報を組み立てていくわけですね。

このことは非常に重要な仕事になります。

2.経営上の位置づけについて

広報・PR 部門は縦割りの部門ではない。「横串の機能」だということです。

よく組織図を書くときに、丸を書いてですね、縦に割って各部門を書く、
こういう図はもう完全に時代遅れですね。

今の経営っていうのは、丸を書いたら、この円周のなかに、それぞれ広報があり、マーケがあり、生産があり、
というように、全体でものを考えていく必要があります。

部門機能で広報・PRをされているようでは、そもそも経営上の位置づけが間違っています。

4.今や、ひとことで言えばどういう部門

広報・PR部門は「クリエイティブ部門」であるということです。

今の時代、こんな広報部門はないと思いますけど、昔はですね、
生産部門とか営業部門とか研究部門から情報が出てきて、広報がリリースに書いて、
それを配って、マスコミのみなさんに発信していく。

これを年間に何本出したか、が広報の評価になる時代もありましたが、
もはやそれではマスコミのみなさんが欲しい情報は書けません。
そんなリリース、ぜんぜんおもしろくない。それだけだったら、外注してPR会社にお願いしたほうが、いいものになります。

では、社内で書くリリースって何なのか。その意味を考えないといけない。

5.経営者の近くで何をやるのか

広報・PR部門は「経営者の情報参謀」であるべきです。

……しかし、経営者に言われた仕事を迅速的確にやるのが参謀だと思う人もいるんですけど、
それは間違いです。

経営者に正しい提案ができるのが参謀。
あるいは経営者が社会的に間違っているときに、体を張って羽交い締めにするのが参謀。

したがって、われわれは情報の便利屋を求めているんじゃない。本当に力のある参謀を求めているんです。

6.変わる時代に、変わらないものを見つめる

ソーシャルネットワークで完全に媒体というものが変わってきた。
AIで仕事ががらっと変わりそうだ。
今はそんな変化の時代です。

ただ私はですね、

この先においても、変わらないものがあると思うんです。
それは、「企業とは何か」という問題です。

どんな状況、どんな時代におきましても、企業って何なんだという話。
あるいは、我が社は何なのかという話。
これがやっぱり広報・PRパーソンの基礎に無いとですね、振り回されてしまいます。

7.忘れてはいけない、企業の原点

英語のcompanyっていう言葉は、「交際」とか「つき合い」とか、
「仲間」だとか「人の集まり」を意味しているわけです。

あるいは、まさに「一緒にパンを食べる仲間」。
さらには、corporate citizenshipという言葉があるように、

やっぱり企業は社会に存在させてもらっている。

8.これからは、伝え方ではなく、伝えるべきもの

広報・PR部門で、これから大事なのは、伝え方ではなくて伝えるべきもの、
そして、伝えるべき事実をどうつくるのか。

このことに力を入れるべきだし、伝えっぱなしではダメで、
伝えた結果、相手との信頼関係構築の度合いがどこまで向上したのか。

ここを評価しないといけません。

年間ニュースリリースを百何十本出しています、
うちの広報は頑張っています、
そういう評価基準になってしまっては意味がないのです。

9.目指すべきPRパーソンは、
スポークスパーソン

PRパーソンから、スポークスパーソンへ。価値を上げていってくださいということです。

たとえば、スポークスパーソンって言いますと、
アメリカで言えば報道官、あるいは国務長官のクラスですね。

この人たちは、大統領の意を介して、国レベルでものを発信する。
ある意味で、スポークスパーソンになろうっていうのは、経営者と同じレベルで広報・PR をやる。

もちろん。すべてがそうではないですが、それができる人を目指してもらいたいと思うのです。

10.情報に関して、サイエンティストになること

情報サイエンティスト、あるいは情報アナリストになってくださいということです。

ビッグデータの世界でデータサイエンスという仕事があります。
ビッグデータというのは、いっぱいデータがあってもどうしようもないですから、
このデータを分析して、有効な予測をたてる。
そして経営をサポートする。

そのためには、単にIT スキルでデータを分析するのではなく、
やっぱりビジネスとか市場のトレンドの感性や情報や知識を持って、初めてできるわけです。

11.社会のストーリーテラーになれ

目指すべきものの3 番目は、

ストーリーテラーになって、社会にムーブメントを起こす人になってほしいということです。

たとえば、社内情報を企業の情報、コーポレートのレベルにどう引き上げるか。
さらにそれを市場の情報にどう引き上げるか。あるいは業界の情報にどう引き上げるか。
さらにそれを社会全体の情報にどう引き上げるか。

こういうストーリーがつながっていくと、
まさに今日のテーマの、社会のムーブメントを起こすことにつながると思います。

12.情報のストーリーをどうつくってゆくか

情報のストーリーづくりをどうやってゆくか。

最近、あるところで聞いたんですけど、名詞型、形容詞型、動詞型の話です。

名詞型の広報というのはモノ中心、モノを語る。
形容詞型の広報というのは付加価値をつけて語る。
動詞型の広報はそれを使ったらどうなるかという、
要するにユーザーエクスペリエンス、体験を語る。

13.広報・PR は、知らせることではない

これからの広報・PR の課題は、コミュニケーションを、
ステークホルダーとの信頼関係を深めるところまで、使い込んでいくことです。
意味があるコミュニケーションにしていくことです。

ここをやらないと、

企業のコミュニケーションと言っている割には、
実は伝達一本やり、発信一本やり、あとは受け身の対応となって、
本質を間違えてしまいます。

14.どう外と中をつなぐか、が仕事

私は、かつて広報を11 年間やってきましたけれども、
当時、「広報コンパス論」というのを教えられたんです。

広報というのはコンパスと同じだと。

最近、若い人はコンパスを見たことない人が多いみたいですけれども、
ご存じのとおり、片っぽが芯で片っぽが鉛筆です。
で、われわれ広報・PRパーソンは、股裂き状態にあるわけです。

しかし、この芯のほうを社内から外すわけにはいかないと。
社外の鉛筆は、実はこう書くのは記者さんなので、
われわれは書けないと。

しかし、

ここで踏ん張りながらですね、どう外と中をつなぐか、を真剣に考えていく。
それによって、企業の成長にどう貢献していくか、

社会にどう貢献していくかということが仕事なんです。

15.経営の万が一を救うのは、誰か

これまでもお話をしていましたように、
広報・PR部門というのは、われわれ経営陣にとって非常に重要な部門であります。

万が一、不祥事が起こったら困ります。
不祥事が起こったらですね、トップはもうおろおろします。

そのときに、誰かがしっかり支えてあげないと大失敗します。
では、誰が支えるのか。

それが広報・PRの人の仕事になっていくんだと思います。


PROFILE

いずみや・なおき/1948年生まれ、京都産業大学法学部卒。1972年アサヒビール株式会社入社。以来、主に広報畑で業務を行い、1986年、広報部広報企画課長。「スーパードライ」のヒットを広報として推進した。1995年、広報部長。2000年、執行役員、2004年常務取締役を経て、2010年、代表取締役社長に就任。アサヒグループホールディングス株式会社代表取締役社長兼CEOを経て、現在は代表取締役会長。広報の経験を生かしながら、メガカンパニーを指揮している。

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