「自分の見ている正解だけで仕事をしてはいけない 」

P&G 広報渉外本部 執行役員 シニア ディレクター 住友聡子さん

広報・PRで豊富な経験を持つ人たちに聞く「あなたにとって広報の仕事とは?」。
今回話を聞いたのは、P&Gにコミュニケーション職として新卒入社し、長年にわたって広報関連の業務に取り組んでこられた住友聡子さんだ。

二度の育児休暇を取りながらも40代前半で大手企業の執行役員、広報渉外の責任者。2012年のロンドンオリンピックではワールドワイドスポンサーだったP&GのキャンペーンPRを日本法人ではたった一人で担当した。また、社内では浸透していたダイバーシティ&インクルージョンを企業レピュテーションの強化に活かそうと、社長にかけあい、それまでなかった予算を獲得し、人事部門とともに社外研修プログラムを独自開発して提供。さまざまなアワードを受賞している……。

数々の華々しい実績を伝え聞いていたわれわれは、実際のところ取材に際して少し身構えていたが、その謙虚すぎる話しぶりに、正直、拍子抜けした。それでもよく話を聞くと、実はそれは経験を通して得た教訓によるものだということが見えてきた。そして、むしろその教訓を詳しく語ってもらうことの方が、これまでのチャレンジをよりイメージしやすいと考え、「失敗した話を中心に聞きたいです」とお願いしてしまった。

最初に配属されたお客様相談室で、住友さんは、いきなり洗礼を受けたという。

日々お客様からの問い合わせに対応するなかで、お客様は不良品だと感じていたものが、実は不良品ではないということがよくあった。そのときに、ただ「不良品ではありません」と言うのでは、コミュニケーションはうまくいかない。お客様の期待を裏切った、その気持ちを理解することが大事だと学んだ。

「自分に見えている正解が、全てではない」

これが今日まで大切にしている住友さんの教訓だ。

 

社内と社外のバランス感覚

入社二年目、広報に異動し、半年間密着のテレビドキュメンタリーを担当した。当時の住友さんにはすべてが手探りで、「いろんなことが思い通りにならない」状態だったと言う。

今から振り返るとその理由は明らかで、やりとりの相手だったベテランの番組プロデューサーに対して、自社本位の考え方を押し付けてしまっていたからだった。もちろん当時、そんなことには気づきもしない。ただ、誠実に向き合おうという気持ちから、思いをしたためた手紙をそのプロデューサーに送るなどしていた中で、徐々に解決策が見えてきた。

鍵となるのが「社内と社外のバランス感覚」だった。

どうしたらお互いにWin-Winで仕事が出来るかを考える。その上で重要な「社内と社外のバランス感覚」をもとに、攻める場面と守る場面を使い分けること。それは広報の仕事をする上で、今でも大切にしていることだと語る。

 

伝え方を変えるきっかけになった「大きな失敗」

「もっと大きな失敗があるんですよ」。

管理職になって間もないころ、あるキャンペーンを担当することになった。

キャンペーンチームの熱量は高かった。その意気込みとは対照的に、住友さんチームは広報として、淡々とロジカルにキャンペーンのメディアバリューを評価した。そして嘘をついてはいけないと考えて、自分が出した評価以上の露出については約束できないけれど最善を尽くします、とキャンペーンの責任者に伝えたと言う。

ところがこれに責任者は立腹し、海外出張中の上司のもとに「担当者のやる気を感じない」と連絡が行く事態になった。

後日上司と話し合った住友さんは、仕事の仕方は問題ないと評価された一方で、「正論だけではダメだ」と諭された。

それ以来、どんな案件が来ても、まず「分かりました」と前向きな返事をするようにした。たとえそれが直感的に実現困難だと感じた場合でも、先に相手の意見を受け入れるのだ。そして、一息置いて、「どのようにすればできるか?」をイメージし、自分の考えを伝える。

ポジティブに応じつつ、時には難しいチャレンジであることも伝える。そうすることで、相手も納得して、その課題解決に協力が得られるようになったと話す。

ここでも住友さんは、「自分が見ている正解が、全てではない」ことを再認識したと話す。

2020年、P&Gは、住友さんが中心となって、社内で長年蓄積されていたダイバーシティ&インクルージョン(D&I) 推進のノウハウをスキルアップ研修などのプログラムにして社外提供しはじめた。冒頭で触れた活動である。社内の取り組み共有を越えた発想はそれまでにはなく、門外不出の社内研修を社外に出していいのかなど本社との交渉などもあったが、「この強みこそ自社のためにも社会のためにも活かされるべきと考えて押し切って進めた」ところ、世界的にも関心が高まっていたこともあって、Black Lives Matter運動の広がりなどを背景に、D&Iプログラムは大きな反響を得た。これによって社内の機運も更に高まるという大変嬉しい結果にもつながったと言う。社内と社外がうまくリンクした、住友さんが大切にしてきた形がまさに体現した例と言っていいだろう。

失敗話をこんな風に話せるのは、やはり積み重ねがあってのことですねと投げかけると、「そんなことないですよー」とまた軽やかな謙遜で返されてしまった。

 

 

住友さんに聞いた「広報で大切なこと」は?

”想定外”を想定外にせず、余裕を持って構えられることが大事です