「広報は企業の応援団。裏方だけどやりがいがある」

パナソニック ホームズ 古矢直美さん

広報・PRで豊富な経験を持つ人たちに聞く「あなたにとって広報の仕事とは?」

 

今回話を聞いたのは、三洋電機時代に長らくプロモーション畑を歩み、10年前にパナソニックの子会社となってから広報に転身した古矢直美さんだ。

古矢さんは三洋電機入社後、大型空調機器や食品システム機器、家電等のプロモーション畑を長らく歩んできたが、同社がパナソニックによって子会社化された後、パナホーム(当時)への出向となった時に初めての住宅業界で、かつ初めての広報業務に携わることとなった。

「出向になった当初は、これまで経験してきたプロモーション業務とあまり変わらないだろうと軽く考えていましたが、実際に携わってみて全く違うことに愕然となり、自身のあまりの無力さに打ちひしがれました」。

プロモーションは広告費を使うことで、自社が伝えたい内容をそのままメディアで表現できるが、広報はメディアに主導権があり、企業の伝えたいことが100%掲載されるわけではない。その仕事の違いに戸惑った。

「これはまずいと危機感を持ち、あわててPRSJのセミナーを受講し、PRプランナーの資格取得に向けて勉強しました。ここで初めて広報業務について体系立てて学ぶことができ、自信を取り戻すことができたのです」と古矢さんは当時を振り返る。プロモーション分野ではベテランだったが、広報分野では新入社員の気持ちで真摯に取り組み、先輩社員や上司、他社の広報担当者、ベテラン記者たちの言葉に耳を傾け、時には助言を請い、少しずつ成長してきたと言う。

 

広報にとって大切な5つのスキル

PRプランナーの資格取得は2013年。そこからの8年間で古矢さんが思い至った“広報業務における大切なスキル5つ”がある。

「最も重要なのは、何と言っても情報収集能力です」。

自社のこと、他社のこと、自社が属している業界、ターゲットにしているメディアが今どんなことに注目しているか。これらをよく知らないと、プレスリリース制作や情報発信計画の立案が明後日の方向に行ってしまう。そのため日々、様々なメディアに目を通し、社内外の人と多く話すなど、常にアンテナを張り巡らせている。

「2つめは客観性。これが宣伝と最も異なるところ」。自分たちが最善と思っている内容をそのまま発信するのではなく、一度立ち止まり、世間からはどう見られるのだろうかと第三者の視点で俯瞰して見る。そのうえで、発信内容や発信のタイミングを今一度見直すという。

3つめは、正確性。プレスリリースは企業の公的文書で、間違いは許されないので、「ここが一番気を遣いますね」。

4つめは約束を守ること。メディア関係者は常に時間に追われている。相手のことを考え、約束通りに確実にレスポンスすることを心がけているという。

そして最後が、語彙力だ。

「プレスリリースを書くうえで、言葉をたくさん知っていることは重要な要素。会社の先輩に、1つの言葉に対してすぐに10の言い換えができる人がいます。私もそこまでの域には到底到達できていないので、もっと勉強しなければと思っています」。

最近はSNSの発達により、ユーザーが企業からの発信に直接触れられるようになった。メディアに咀嚼されることのない生の情報で、いかに一般人の心を掴むか。その表現力が試される時代になっている。

「一般の方たちに自分ごととして捉えてもらったり、共感してもらえたりするようなナラティブ、ストーリーを作れるスキルも必要だと感じています」。新製品や新サービスのプレスリリースに合わせて、その裏で開発担当者たちがどのような苦労をしたかといったストーリーも発信しているという。

「ただ、これらを100%完璧にこなす必要はないと最近思うようになっています。というのも、つい先日あるベテラン記者の方に、“プレスリリースを発信する側は8割の出来で良しとし、あとはメディアに託すつもりで作れば良いのではないか”と言われたのです」。

表現も含め、全ての内容がリリースに盛り込まれている必要はなく、プレスリリースを見たメディアが質問したくなったり、追加で取材したくなったり、何か心に引っかかる内容が盛り込まれていれば良いと。「それを聞いて、すごく気持ちが軽くなりました。こういう人たちに囲まれて、今でも少しずつ成長させてもらっています」と古矢さんは笑う。

 

社内外で信頼関係を構築する

古矢さんにとって「広報とは何か」を聞いたところ、「会社の応援団」という答えが帰ってきた。

「発表後、社内の関係部署の人たちから、“自分たちの事業にスポットが当たったことで力をもらった”と言われることが時々あります。会社を支えてくれる人々の地道な努力に光を当てることができた時、最も充実感を感じますし、私自信もその言葉をもらうことに最もやりがいを感じています」。

100人の社員がいれば100の苦労がある。広報がリリースを発することでその苦労が報われることが多々あると考えている。

「広報はともすると、自身が目立つ派手な仕事のように思われてしまいますが、われわれの役割は企業の価値を高めることであり、裏方業務の最たるものだと思っています」。外から見ても分からない企業内部の取り組み、良いところを加工して世に知らしめる。それによって企業のイメージが大きく変わり、回り回って企業で働く人たちのモチベーションや誇りにつながる。「責任重大だが、やりがいのある仕事です」と古矢さんは微笑む。

「そのためには、社内では広報活動の意義を理解してもらい、情報を出してもらえる体制をつくり、社外的はメディアの方々にこちらの意図をきちっと理解してもらえる努力が必要。社内的にも社外的にも、信頼関係の構築が重要だと考えています」。

先輩広報パーソンのように、メディア関係者の懐に飛び込むような関係性を構築したいと意気込む古矢さん。成長するための努力はまだ止まらない。

 

古矢さんに聞いた「広報で大切なことは」?

「PRだけでなく、マーケティングの目線も併せ持つことです。広報に際しても3C分析とPDCAサイクルは必要です」

※:3C分析は市場や「Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)」の3つの視点からさまざまな事柄を導き出すフレームワーク

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