広報・PRで豊富な経験を持つ人たちに聞く「あなたにとって広報の仕事とは?」

メルカリ PRチーム ディレクター グループ広報責任者 矢嶋聡さん

「見立て力と中長期戦略でPRを企業の重要な柱に」

今回話を聞いたのは、話題のインターネット企業の初期から参加し、広報部門の責任者を務めてきた矢嶋 聡さんだ。

矢嶋さんは大学時代、同級生とインターネットサークルを運営した経験から起業を志し、まずはスタートアップ企業に就職した。しかし、起業に向けて自分の強みを見出だすことができなかったため、見識を広めようとIT先進国だったアメリカへの留学を決意する。昼は語学学校、夜間はニューヨーク大学の社会人プログラムでマーケティングや経営学を学んだ。そこでPRの講義を受ける機会があり、教師が「今後、PRはマスメディアを対象とするだけでなく、デジタルメディアを使った戦略が重要となる」という話を聞いた時、「自分のバックグラウンドがインターネットだったので、ネットとPRを組み合わせたらユニークなキャリアになる」(矢嶋さん)と閃き、広報職を目指すようになる。

帰国後、日系のPR会社に2年、外資系のPR会社で2年経験を積み、LINEの前身であるネイバージャパンが日本進出を機に募集していたマーケティング・広報担当者として入社した。その後、LINEとなって日米同時上場も経験し、次のステップとして2017年にメルカリに参加する。メルカリ創業者の山田進太郎社長は、大学時代にインターネットサークルをともに立ち上げた仲間だった。

現在、矢嶋さんは16人の大所帯となったメルカリグループの広報チームを束ねる責任者だ。メルカリ広報に必要な人材像を問うと、「広報の経験があればよいというものではない。会社の課題、事業の課題と目的を理解し、そのためにはどういうPRが必要かを自分の頭で考え、意思を持って事業部や経営層を巻き込み、積極的に推進していく攻めの姿勢を持ちながら、その一方で、炎上などのリスクにも適切に対応できるバランス感覚を持っていること」と答える。

「見立て力」で広報の存在価値が上がる

広報にとって最も大切なスキルを問うと、「見立て力」と矢嶋さんは言う。

「見立て力は『風を読む力』と言い換えることもできます。自らの見立てが言語化でき、社外の風を社内の追い風にできるようになると、経営陣や事業部から頼られる存在になります。そうなれば、何かを始める時に相談が来るようになり、広報の存在価値が向上するのです」

見立て力とは、現在の社会的環境、自社を取り巻く業界環境を正確に捉え、どのメディアにどういう手段で、どういう文脈で情報をアウトプットすべきかを判断する能力だと言う。

「現在は、ちょっとした一言が発火点になってSNSで炎上するなど、外部環境の変数が多く、過去の経験が通用しないケースが多い。新聞やテレビ、ウェブ、SNSなどで何が流行っているか、なぜこの企業がニュース等で取り上げられるか、どんな発言や行動が批判されるのかに常に目を光らせ、その理由を考える癖をつけないといけません」

そうして見立て力を養った上で、社内に対してもあらゆる情報にアンテナを張り、他社より強いユニークなコンテンツを探し、どんなコンテキスト・ワードを紐づけたら話題になるか仮説を立ててから発信し、結果を検証して試行を重ねる。情報を収集して自らの頭で考えて行動することで見立て力はより鍛えられるとする。

見立て力が鍛えられると、リスク対応力も鍛えられる。見立て力が「攻めの広報」ならば、リスク対応力は「守りの広報」。SNS等で批判にさらされた時、どのような対応がより早く事態を沈静化できるか、決して間違うことの出来ない紙一重の判断を下せる力も、今の時代の広報には必要不可欠なスキル。そのためには、社会の流れに常に目を配り、風を読む力が必要となると話す。

そんな矢嶋さんも過去には見立てを誤る時があった。

「システムの都合上、サービスを変更した時のリリースで、本来ならミニマイズしたかった反響が予想外に大きくなってしまったことがあります。外部環境が大きく変化しているのに、参考にした過去のケースは平時の際のものだった。読みが甘かった」

逆に、意図したものより良い意味で反響が大きかった場合は、嬉しさもひとしおだ。そんな例の1つが、2020年から始めたグリーンフライデーの取組みだ。

新しいものを買って使わなくなったら捨てるという旧来型の資本主義経済とは異なり、タンスの奥に眠っている衣料品類を再利用し、循環型社会を広めることを目的として、ブラックフライデーに対するアンチテーゼという形で“グリーンフライデー”が欧州で行われていると知り、日本でも導入しようという試みだった。

メルカリユーザーに家の中で眠っていた服を持参してもらい、プロのファッションデザイナーがコーディネートしてランウェイを歩く、“新作のないファッションショー”を実施した。その結果、多数のマスコミが取り上げ、メルカリが目指す廃棄の少ない社会、循環型社会の実現という理念への理解が大きく伸展した。「見立て」が見事にはまったと振り返る。

どこにPRのゴールを設定するか、広報にも中長期戦略が必要

もう一つ、広報にとって重要なのが、「中長期的な視野に立ち、一貫性を持った広報プランを持つこと」と矢嶋さんは語る。

「メルカリに入社した時に真っ先にやったのが、経営陣全員へのインタビューです。会社が世間から今どう見られているかの現状把握と、どう見られたいか、何を目指すかといった長期ビジョンや経営者の思いを聞いた上で、そのゴールに向けたPR戦略を構築する必要を感じたからです」。

広報は、ともすれば、目の前の新製品、新サービスのPRを単発的に発信して終わり、という超短期的な視野に陥りがち。経営陣や事業部から言われるままにリリースを書き、発表会を開催し、メディアキャラバンに出発する。

「PRは良くも悪くも型が決まっている。ルーティン化すると手段が目的化してしまう。それではダメ。誰に何を届けたいか、何のためにPRするか、最終的に達成したいことは何かという目的を考え、そのための最適な手段を考えなければいけない」。

一般的な企業は、新サービスや新製品がある程度形になってから広報部門が参画し、メディア戦略を作り始める。しかし、それでは点が線にならない。だから矢嶋さんは、新サービス・新事業の立ち上げ初期から広報が入り、事業戦略の中にPR戦略を最初から組み込むようにしているという。

「企業には、3年、5年、10年といった中長期戦略がある。その中長期戦略に沿って新サービス・新事業を開発していくが、広報戦略も新事業発表のたびに単発的に行うのではなく、経営陣・事業部と歩みを揃え、中長期戦略に沿って線と面でPR戦略を立てるべきと考えています」。

中長期的な事業戦略の中で、今回の発表はどこに位置付けられるのかを考え、ゴールに向けた一貫性のある文脈で伝えていく。それにより、メディアや読者に「これまでやってきたことはここにつながるのか。この企業はここを目指しているのだな」という気付きを与える。

「広報は、企業価値を上げる最前線であり重要な部門なのです。」

矢嶋さんに聞いた「広報の魅力は?」

「市場を創造できることです。マーケティングは顕在化した市場の中でどう刈り取るか、パイを奪い合うかの勝負で、消費者のマインドシェアを高めて購買につなげていく役目。広報はその手前にいる。ニーズが顕在化していない人たちに対して、社会的意義や世の中の関心ゴトから商品価値を伝えることでニーズを引き起こしていくアジェンダセッティングする役目。広報が介在することで、消費者の生活やライフスタイルに多大な影響を与えることができます」

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