新人広報に聞く第5回は、「焼肉のたれ」で知られるエバラ食品の渡邉さん。最初は広報を志望していなかったという渡邉さんに、広報に就いたきっかけや現在の仕事内容などを聞いた。
広報の魅力は“つなぐ”こと
「私はエバラ商品も当社で働いている人たちも大好き」と言い切る渡邉さんがエバラ食品に入社したのは2018年。食べることが大好きなことから食品メーカーを中心に就職活動をし、念願かなってエバラ食品に入社することができた。
「働き方が多様化し夫婦共働きも増える中で、冷凍食品やデパ地下お惣菜、デリバリーのように食文化にも利便性が求められ、日本の家庭では台所に立つ機会が減りつつあるように思います。しかし、鍋料理や焼肉など、家族・友人で食卓を囲んで楽しむコミュニケーション文化を失いたくないと思い、調味料メーカーへの就職を強く希望しました」
新卒で配属されたのは仙台支店家庭用商品課で、スーパーマーケットなど取引先への営業を担当。エバラ食品は全員が総合職採用のため、配属希望は伝えられるが研修後にあらゆる部署に配属される可能性があり、渡邉さん自身も営業には興味があったという。それが入社2年後の2020年に、横浜本社の広報室への異動命令が出された。
「予期していなかったので驚きました。もともとマーケティングには興味を持っていたのですが、広報というとニュースリリースの配信やメディアの取材対応くらいの漠然としたイメージしかなく、異動にあたっては不安いっぱいでした。ですが、当時の広報課の上司からは“あまり構えずに気楽に来て”と言われて少し安心しました」。
しかし、配属3日目にして新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令され、何も分からないままに在宅勤務に。不安だったものの、当初からオンライン環境が整っており、教育・指導や相談が随時できたことでスムーズに業務をスタートできたという。
「最初のうちはやはり、メディアの方にお送りするメール文章の一字一句を修正されました。営業の時とは異なり、こんなに言葉選びに気を付けなければいないのだなと驚いたものです」。
広報は企業の看板。メディアからの問い合わせに対する回答メールは、そのまま記事に反映されることがあるため言葉選びに慎重にならざるをえない。特に業界紙は詳細に報じられるため、より一層の気を使ったという。
情報を通じて顧客の課題と社会的課題を解決する
1年目は業務をこなすのに精いっぱいで、広報の意義や使命、魅力といったものをあまり考えずにやってきたが、2年目になり一般メディアも多く担当するようになってきたところで、上司からあらためて広報の役目を説明され、すとんと腑に落ちたという。
「広報の意義とは、メディアを通じてお客様が抱えている課題や社会的課題を解決することだと理解しました。具体的には、当社は調味料の会社なので、食を通じて人と人のコミュニケーションを育んだり、日本の食文化を守ったり、発展させることだと思います」。
エバラ食品は「焼肉のたれ」シリーズにより家庭で焼肉を味わう文化を根付かせ、「プチッと調味料」シリーズでは鍋の素を小分けにすることで小世帯化という社会的課題に即した商品を世に出し、新たな価値の創造に取り組んでいる。
こうしたヒット商品によりエバラ食品という企業自体の知名度は高いが、販売している商品の中には代表商品に比べ認知度が低いものも多くあるため、渡邉さん自身、伝えられることはまだまだ多くあると感じているという。
現在、渡邉さんは社外広報のほか、SNSの運営、ファンベースマーケティング、アンバサダー施策も担当する。SNSはX(旧Twitter)、Instagram、Facebookの公式アカウントに投稿する自社商品を使った調理メニューの選定と投稿原稿のチェックなどだ。
最近では、バンダイとのコラボにより、「黄金の味」などをミニチュアフィギュアにした「エバラ食品 ダブルチャームスイング」がガシャポンで登場したことを受け、Xで積極的に発信したところ反響が大きくて驚いたという。
「このまま人口減少が進んでいくと調味料の市場も減少の一途をたどることになります。市場の維持・拡大のためにはマスメディアへの発信も重要ですが、SNSによってお客様一人ひとりに直接情報を届け、より多くのお客様にエバラ商品を楽しんでいただきたいのです」。
昨年から始めたファンベースマーケティングは、エバラのファンの方に商品を試した感想をSNSに投稿してもらったり、エバラ食品主催のイベントに招待して交流したりしている。なお現在、エバラ商品の魅力などを発信するエバラアンバサダーは46人を数えるという。
自社のことを知り、発信できる喜び
広報の魅力について渡邉さんは、「商品開発秘話など自社のことをより深く知ることができ、それを外部に発信して多くの人に知ってもらえることが何より嬉しい」と語る。
「何かを発信する時、なぜそれが必要なのか目的を明確にすると関係部署のスタッフは皆さん協力的で、社内調整に苦労したこともありません。私はエバラが大好きなので、この会社をより多くの人に知ってもらう広報の仕事は、とても楽しいです。広報の面白さは“つなぐ”ことだと思っています。エバラとメディアをつなげ、商品とお客様をつなげ、商品を通じて家族や友人とつなげる。そのお手伝いができるのが広報の醍醐味です」。
とあるテレビ番組に商品開発スタッフとメニュー開発スタッフが出演することがあり、スタッフたちは当然テレビ出演に慣れていないので、ガチガチに緊張していた。そこで渡邉さんは過去の放送を研究し、放送後のSNSの口コミをまとめて、こういう表情や話し方をすると好意的に見られますというアドバイスをまとめて渡したという。
「出演する社員の方々の不安を取り除き、普段の力を発揮して商品の良さをきちんと伝えられるようお手伝いしたかったのです。これも“つなぐ”という意味で広報の役目のひとつだと思っています」。
その一方で広報の難しさも感じている。
「営業時代は自社の決算短信にきちんと目を通していなかったのですが、広報という立場では、いつメディアの方に聞かれるかもしれないので、しっかり理解しないといけないと実感しています。また、自社の商品のことだけではなく社会背景もしっかり学び、当社が今なぜこの商品を世に出すのかその意義・背景を理解し、ニュースリリースに落とし込む必要を感じています」。
今後は社会的視野を持つように意識を改革していくとともに、マーケティングの知識をもっと深め、社内・社外から頼られる存在になりたいという。
「今はまだ新発売する商品を発信する役目にとどまっていますが、いずれは商品の企画段階から参画したいし、販促面でも関わっていきたいです。それにはもっと知見と人脈を広げていく必要性を感じています」。
コロナ禍とともに広報のキャリアをスタートしているため、人脈の薄さを感じているという。営業出身だけあってリアルなコミュニケーションの重要性を理解しており、社内・社外の人脈を広げることで視野を広げ、知見も深めたいと考えている。
広報に必要なことは?「アンテナを張り巡らせて、常にトレンドに敏感になること」
最後に広報を目指す人へのアドバイスを尋ねた。
「広報の仕事にとって、社会の様々なことにアンテナを張ることが大切だと思っています。新聞・雑誌・テレビのマスメディアからSNSによる個人の口コミまで、何が今話題になっているのか、どの媒体がきっかけでバズっているのか、常にトレンドに敏感になり、情報収集を欠かさないこと、その努力が必要だと感じています」。
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