「広報部長スキルアップ講座2025」は、各業界の広報に関わるマネージャークラスの方を講師に迎え、広報部門のリーダーに求められるスキルやメディア対応の視点、法的リスク管理について学べる実践的な講座です。

今回は広報委員有志メンバーが当日のセミナーの模様をレポートいたします。

第一部 「メディアから見た企業広報・経営コミュニケーション」

講師: 山田 俊浩氏(東洋経済新報社 東洋経済総編集長)

山田氏は東洋経済新報社の総編集長として、オンライン化が進むメディア環境の中で紙媒体の価値を保ちながらデジタルとの融合を推進してきました。同誌が取り組んでいるデジタルファーストの改革や、企業における日常的な広報活動について具体的なヒントを提供しました。

特に重要なポイントとして挙げられたのは、好調時だけでなく、業績不振や危機対応時にもオープンなコミュニケーションを継続することの大切さです。山田氏は、トップインタビューや個別取材が読者にとって価値ある情報であり、有料コンテンツのコンバージョンに直結すると指摘。広報担当者に対しては、日頃からメディアとの信頼関係を築き、積極的なコミュニケーションを心がけるべきだとアドバイスしました。

第二部 「企業法務広報について」

講師: 鈴木 悠介氏(西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士)

企業の危機管理対応に深い専門性を持つ鈴木氏は、広報業務に伴う法的リスクについて具体的な事例を交えて詳しく解説しました。特に著作権、肖像権、商標法、景品表示法、個人情報保護法など、広報担当者が日常的に直面するリスクについて掘り下げ、それらが企業のレピュテーションリスクにどのようにつながるかを明確に示しました。

さらに、ステルスマーケティング規制に関する注意事項や、SNS活用時の法的なグレーゾーンについても具体的な事例を挙げ、広報活動における法務部門との連携の重要性を強調しました。鈴木氏は、リスク指摘型ではなく、問題解決型の法務スタッフと早期から協力し、平時から研修や危機対応マニュアルを整備しておくことが、広報業務におけるリスクを最小化する最良の手段であると提言しました。

第三部 パネルディスカッション「企業経営における広報部長の役割とは」

講師(パネリスト):
◆坂本 香織氏(第一生命HD 執行役員 グループチーフブランド&カルチャーオフィサー)
◆飾森 亜樹子氏(三菱UFJフィナンシャル・グループ 経営企画部 部長 チーフ・コーポレートブランディング・オフィサー)
◆森田 将孝氏(日立製作所 グローバルブランドコミュニケーション本部 副本部長兼 グローバルコミュニケーション部長)
◇モデレーター: 遠藤 祐氏(博報堂PR局 シニアPRディレクター)

パネルディスカッションでは、広報部長が果たすべき役割について、経営戦略との一体化およびブランドとカルチャーの統合という二つの主要テーマを中心に深く議論されました。

経営戦略との一体化

坂本氏は広報の役割を「聞く人」と定義し、社内外のステークホルダーの声を経営戦略に結びつける重要性を強調しました。特に、経営戦略から広報活動を捉えることで、より深い共感を生み出し、社員の自発的な行動変容を促すことが可能になると述べました。また、経営層と社員のコミュニケーションを円滑にすることで、広報が経営戦略の実践を加速させる役割を担えるとしました。

飾森氏は、広報が単なる情報発信ではなく、企業の変革を促進する中心的な役割を果たすべきだと主張しました。具体的な事例として、従業員のマインドセット改革を促すコミュニケーション活動を紹介し、経営層と社員の橋渡し役となり組織の変革をリードすることが広報の新たな役割であると強調しました。企業の戦略的な意思決定プロセスにも参画し、コミュニケーションを戦略的に設計することが重要だと述べました。

森田氏は、広報の役割がメディア対応だけでなく、法務、カルチャー、インターナルコミュニケーションなど多岐にわたることを指摘しました。特に日立における組織改革を挙げ、メディアの影響力低下に伴い、SNSなどを活用した統合的なコミュニケーション戦略を経営と一体化して推進することの重要性を語りました。また、広報部が経営層との強固な関係を構築し、方向性を明確に示すことが企業経営にとって不可欠だと述べました。

ブランドとカルチャーの統合

坂本氏は、企業理念やブランドを社員に浸透させる活動が広報の核心的役割であると指摘しました。社員が理念を深く理解し、自発的に実践する企業文化を形成することで、広報が企業のブランド価値向上を実現できると述べました。また、ステークホルダーの視点を経営層にフィードバックすることで、ブランド戦略を効果的に推進するための土台を築けると強調しました。

飾森氏は、ブランド戦略を通じて社員の行動変容を促すことの重要性を語りました。単なるブランドの認知拡大ではなく、従業員一人ひとりがブランドを自分事として捉え、日々の行動に落とし込むコミュニケーション設計が必要であると強調しました。組織内外での深い対話を通じて、社員が自らブランドの担い手となり、その変化を企業の持続可能な成長へと繋げることができると述べました。

森田氏は、ブランド戦略を企業文化の核と捉え、企業が提供する価値を明確に発信することで、社員の帰属意識や誇りを醸成する役割を広報が担うべきだと述べました。さらに、日立がグローバル市場で戦う中でブランドを活用したコミュニケーションが競争力の源泉となることを指摘しました。企業ブランドを通じて、社員が共有する価値観を明確にし、それを基に企業のイメージ形成や社会的評価を高める重要性を語りました。

最後に一言

最後にパネリストからは、「広報は単なる防衛的な役割を超えて、企業の価値を社会へ積極的に発信し、企業の持続可能な成長をリードする存在であってほしい」とのメッセージが送られました。参加者からの質疑応答も活発で、熱意あふれる交流の中でセミナーは締めくくられました。

文責:宮﨑 遼(株式会社サニーサイドアップ)

<開催概要>

セミナーの詳細はこちらをご覧ください▼
https://prsj.or.jp/event/management2025/

日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)では、今後も会員の皆さまに有益な情報提供や活動の様子をお知らせして参ります。

 

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