PRSJ40周年記念フォーラム トークセッション ダイジェスト版
「パブリックリレーションズへの期待と可能性」
コロナ禍でのPRSJ緊急会員アンケート(「コロナ禍とパブリックリレーションズに関する意識と実態」)を受けて行われたトークセッションのダイジェスト版です。
開催日:2020年11月13日
<セッション・メンバーのご紹介>
本田哲也:ファシリテーター
PRウィーク誌による「世界で最も影響力のあるPRプロフェッショナル300人」に選出。ブルーカレント代表を経て、昨年、本田事務所を設立。本年6月にPRSJ理事に就任。
上岡典彦:パネラー
株式会社資生堂 社会価値創造本部アート&ヘリテージ室長であり花椿編集長、広報部長などコミュニケーションの仕事を25年以上に亘り担当。本年第36回企業広報功労奨励賞を受賞。PRSJでは副理事長として教育委員会活動に参加。
飾森亜樹子:パネラー
NECのコーポレートコミュニケーション本部長(当時。現職は三菱UFJフィナンシャル・グループ経営企画部部長・コーポレートブランディング統括)であり、「会社を変革する・社会を良くするコミュニケーション」をモットーに、様々なステークホルダーへの発信と対話の“コミュニケーションデザイン”を重視。また、2018年第34回企業広報功労奨励賞を受賞。2018年からPRSJ理事として資格委員会委員長を務める。
松本理永:パネラー
サニーサイドアップグループ創業メンバーであり、主幹事業であるPR事業を牽引しつつ、現在はCBOとして自社のブランディングも担当。顕彰委員会副委員長、PRアワードグランプリ審査員も務める。
―いかに社会の共感を得るか、を改めて考える
本田)今日は「共感」というキーワードを設けました。コロナ禍のなかで、共感が非常に重要なポイントになっています。まず企業におけるブランド経営と社会の共感形成との関係についてお聞きしたいと思います。
飾森)私は2つの観点をモットーとしています。ひとつは「会社を変革するコミュニケーション」。もうひとつは「社会を良くするコミュニケーション」。前者は、会社/経営と従業員、また従業員間のエンゲージメントで、そこに共感は当然必要です。また後者の、社会に企業が生み出せる価値を考え、どう認めてもらえるか、の共感も同じく大事です。パーパスですね。従来の企業の存在意義の考え方がより社会に開かれている、社会に語りかけている、そのような精神を持ったものがパーパスだと思っています。
上岡)当社は現在創業148年目で2年後には創業150年を迎えます。このような時代にグローバルビジネスを展開するには、社員の思いや心を一つにしなければならない。そのために、148年の間に培ってきたヘリテージ、会社がずっと大事にしてきたDNAを社員にいかに浸透させていくか。それにより社員のモチベーションやチームの一体感を上げていくことが非常に大事になっています。また当社は、変わらないために変わり続けてきた企業だと考えています。
本田)変わらないために変わってきた、なるほど、深いですね。
上岡)社内に「反資生堂スタイル」という言葉があります。例えば、広告表現や事業活動も継続していくと一つの形に定まってきます。しかし、その一つの形に安住するのではなく、意図的にそれに反する活動をやっていく考え方を「反資生堂スタイル」と呼んでいます。自分たちが大事にしているものを、時代の中で変えないために自らが変わらなきゃいけない。しかし、そのなかにおいても、一貫しているものこそが本当に共感を呼ぶのではないか。知らず知らずのうちに自分たちの内側からにじみ出たもの、末端まで染み込んでにじみ出たものこそが本物のDNAだと思います。
松本)自分の会社が社会の共感をどう得られているか。まず社内のステークホルダーの方が情報を得ることがとても重要だと思っています。自社が発信した情報について、外からの情報として社内のステークホルダーがしっかり把握すること。またその一方で、外から聞こえてくる話を社内のステークホルダーである社員や周囲の人間が正しく受け止められるか、そのリテラシーも非常に重要だと思っています。
今後のPRは、想像力を働かせながら社会をあらゆる角度から見る目が求められると考えています。もちろん一人のPRパーソンとして世界をあらゆる視点で見ていくことは限界があります。私たちPR会社は、社員一人一人の視点を結束して見ていくことも求められている役割の一つだと思っています。
上岡)共感とは、声高に叫んだり、強く主張したりすることではありません。自分たちでも意図してないけれど、知らず知らずのうちに自分たちから「にじみ出たもの」が世の中の方々に「染み込んでいく」。にじみ出たものが染み込んでいく。それこそが、今、本物の共感を作っていくんじゃないかと思います。
本物の共感が、にじみ出ていくような仕掛けをどう作るかがポイントとなり、それを染み込ませていくためには、やはりストーリー構築が大事です。それこそ、まさにPRパーソンの腕の見せ所です。私の持論ですが、主語を自社や自社製品にせず、時代や社会を主語にしたストーリー構築をしていくことが、より深い共感を得るためにPRパーソンにとって必要だと考えています。
本田)にじみ出す、染み込ませる、はとてもいい言葉ですね。にじみ出すは、無理なファクトを作り出すのではなく、社風や社員のDNAにもともと存在しているものを見つめることでしょうし、染み込むは、一方的に情報発信するより、じわじわとストーリー・ナラティブを展開していくことだと思います。
上岡)まさにナラティブなんです。社員一人一人が主体的に自由に語っていく、本当の自分の声で、自分の物語として、です。
松本)我々PRエージェンシーの役割としては、社会側からのものを掘り出していく、探し出していくことが、求められていると感じます。にじみ出したものを受け取る社会との接点です。そして、ストーリーとして上手く伝えられるものにどう作り上げていくか、です。
元々、各企業に蓄積されたものがあって、ものすごく社内に膨大な宝物があるのに、それを上手く引き出せてないことも多いですし、引き出しながら今の社会とどうつなげていくかも我々の仕事だと考えています。
―「共創」で新しい価値と未来を生み出していく
飾森)現在コロナウイルスによって世界共通の緊急事態に直面していますが、その中で焦点が当たっているのがESG、特に環境や社会の安全、そして何よりもデジタルの力です。
コロナ禍においてDXが進んでいます。これはIT企業だけでできることではなく、今あらゆる業界でDXが進められています。私たちはDX以外にデジタルインクルージョンという言葉も使っています。要は、デジタルで変革していくだけではなく、あらゆる人々がデジタルで輝き、幸せになっていく世界を作っていく。ITベンダーだけがやることではなく、あらゆる業界の皆さんとつながり、いろんなものを生み出していく、それがデジタルインクルージョンです。共に創っていく、「共創」がキーワードになります。
全く違う業界が協力することで、新しい価値や新しいビジネスが作られます。身近な例でいうと、コンビニと銀行です。コンビニで銀行のお金がおろせるという、コンビニと銀行がデジタルでつながり、新しい価値を生み出していく。
そのためには、PRの役割として自分たちの価値を見つけて発信していかないと共に創るという発想を他者が持てないし、共創しよう、とはならない。もう業界も業種も垣根を越えて、どんどんやっていこう、みんなで実現していこう、そうPRをやっている皆さんには言いたいです。
本田)企業が競合するビジネス環境はあっても、そういう垣根を超えて共創していく。今、実際それがテクノロジー的にもできる状態になっていて、実装できるようになってきている。ただ、その実装できることの前に何を存在意義にしているか、何をパーパスにしているか、そこから発信していかないと、つながるものもつながらなくなる。そういうことですね。
飾森)そうです。つながるためには、自分の会社の中にある宝物を、ちゃんとふたを開けて出していかないといけないと思います。
上岡)私も共創という言葉を最近よく使ってています。社内の仕事においても貢献や協力ではなく共創していく意識がないといけないと思います。そうでないとPRパーソンも成長していけない。共創はとてもいい言葉だと思っています。
―今、ムーヴメントを作っていくこと
本田)コロナ禍でいろいろ社会状況も変わりまして、今後、不確実さがさらに増すかもしれません。本日のテーマである、PRへの期待と可能性について、おひとりおひとりに聞きたいと思います。
松本)今後PRにとって、「共感の規模」が大きく変化すると思います。これまでムーヴメントというと、大きければ大きいほど良いと考えられてきました。しかし、今後のニューノーマルの時代では、共感の規模への期待が変わるような気がします。これまでのような広くいっぺんに知らしめて多くの共感を生み出すのではなく、より丁寧により深く共感を得ていくムーヴメントが求められる。コロナ禍を経て、社会を変えていく大きな力を作っていくためには、ひとつずつ丁寧に共感を得て深めていくやり方に変わっていくのではないかと思います。
今でもD2Cなどで個々へのアプローチをしていたりしますが、基本的には大勢の人を集め、いっぺんに大勢の人に何かを伝えることは、良しとされ、良い手法とされてきました。しかし、それがこれからもずっと良い手法ではないかもしれないなと感じています。一方でソーシャルイノベーションを起こすとなると、やはり社会を変えていく大きな力を作る必要があります。相反する問題かもしれませんが、その伝え方は、深く丁寧に一つずつ共感を得ていくようなものに変わっていくと思っています。PRに求められる期待値は変わらないかもしれませんが、ムーヴメント作りの浸透の仕方みたいなものは変わっていくのではないでしょうか。
飾森)私もPRへの期待とは、ムーヴメントを作っていくことだと思うんです。社会を良く変えるためには、一企業としての立場だけではなく、みんなでムーヴメントを作っていこう、そんな流れが今確かに起きています。例えば、働き方の改革です。コロナ禍でこんなに働き方が変わってきている、とみんなが発信することによって、業界を超えた日本中のムーヴメントが起きつつあると思いますし、それは一つ前向きな事例です。また、私たちのIT業界が直面している事例で言えば、人口知能、AI、さらにセキュリティなど最先端技術の社会受容性の問題があります。プライバシーとか人権の問題に関わってくるので、メッセージの出し方を誤ると誤解やマイナスイメージを生むことがあります。
優れた技術を持っているだけではなく、正しく実装されていることを私たちは、世の中に発信していかないといけない。それは、1メーカーができることではないと思います。私たちテクノロジーベンダーも、数多くのサプライチェーンの方々も、それを使っていただく顧客のみなさんも、正しく理解できるように共感を作っていく。とても難しいムーヴメントですが、やっていかないといけない。アメリカなどで起こっている人権や人種の問題とかを見ているとまさに重要さを感じます。PRへの期待と言うことを聞いて、まず一番に「ムーヴメント」という言葉が思い浮かびました。
上岡)私は、広報、PRはとても自由な仕事だと思っているんです。社内も広報というだけでいろんなところに出入りできます。社外も本当にいろんな方とお会いできます。だからこそ、いろんなものをつないで、共感の芽を植えていきながら、共創の芽も作っていける。ムーヴメントも作っていける。本当にそういう仕事だなと今日改めて、おふたりのお話しを聞きながら強く思いました。
―共感から共体験へシフトする
本田)共感に関してですが、個人的には「共体験」という言葉にも注目しています。共体験は一緒にやること。まさに行動、アクションです。共感も大事ですが、この共体験をどう創出していくか。ポストコロナを考えると、すごくポイントになってくる気がします。
飾森)やはりカスタマーエクスペリエンスがとても重要だと思います。一般のお客様Cにさまざまな体験をしていただくために、BtoBのBのお客様とどう一緒に私たちのテクノロジーの価値を作っていけるか、ストーリーにしていけるか。例えば、顔認証技術を使って、パスポートをいちいち出さないで入国して、リゾート地に行ったらホテルにもそのままチェックインできて、海岸では現金を出さずに、いろんなものを顔認証で買えてしまう。そういう体験をシームレスに示すことで、業界が一つにつながることができるんです。まさに共体験です。そして、その体験をさらに、一般のお客様に見せてストーリーを作っていく。まさにそういうことだと思います。
本田)素晴らしいと思います。当然そのバックボーンには技術力が存在している。
松本)私も、そこに関して大きな可能性を感じます。今の飾森さんのお話しもそうでしたが、これまで借りることができなかったテクノロジーの力を借りていくと共体験の作り方が、本当に広がりますし、新たなムーヴメントを作ることもできます。とてもワクワクします。
上岡)コロナ禍のなかで、友だちと同じソーシャルメディアの画面を見ながら一緒にダンスをしたりとか、が可能になっています。そういう経験を私たちは見つけ始めています。友だちだけではなく全然見ず知らずの人とさまざまな垣根を超えて、共体験を通じてつながる。それが日常的に起こってきています。そこにはデジタルの可能性を感じますし、積極的に活用していくべきだと思います。
本田)空間とか時間とかを超えて、そういうエクスペリエンスを生み出せるのが、パブリックリレーションズと非常に密接な部分だと思います。さて、お時間がきてしまいました。今日、お話した内容が、仕事のヒントになればいいと思います。パネラーのみなさま、ありがとうございました。
(終わり)