パブリックリレーションズとは

信頼関係の構築

パブリックリレーションズ(Public Relations)は20世紀初頭からアメリカで発展した、組織とその組織を取り巻く人間(個人・集団・社会)との望ましい関係をつくり出すための考え方および行動のあり方である。日本には第2次世界大戦後の1940年代後半、米国から導入され、行政では「広報」と訳されたのに対し、民間企業では「PR(ピーアール)」という略語が使われてきた。しかしその後「PR」は「宣伝」とほとんど同じ意味で使われるようになり、本来持っていた意味から離れてしまった。そのため多くの組織では、その職務を「広報」と呼ぶことが多くなっている。

ただ広報という言葉は、組織と社会あるいは公衆(パブリック)とのよい関係づくりという意味が失われ、組織の一方的な情報発信と受け取られがちである。パブリックリレーションズが本来持っていた〈よい関係づくり〉という点を忘れてはならない。

アメリカのパブリックリレーションズの教科書として最も読まれてきたカトリップ、センター、ブルーム3氏による『Effective Public Relations』(邦訳名『体系パブリック・リレーションズ』)では、次のように定義している。「パブリック・リレーションズとは、組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能である」

ただ“相互に利益をもたらす関係性”というと何か損得関係を思い浮かべる人もいるかもしれないので、この定義にひと言付け加えておきたい。それは、企業、行政、学校、NPOなどあらゆる組織体が、それを取り巻く多様な人々(今日ではその組織となんらかの利害関係がある人々をステークホルダーと呼ぶ)との間に継続的な“信頼関係”を築いていくための思考・行動である。

現在の日本社会では企業においてこの分野の活動が進んでいると思われるので、ここでは組織の代表として企業を取り上げることにするが、企業は自社の活動とその成果である製品・サービスが社会に受け入れられているのか、どう改良したらより喜ばれるのか、あるいは逆に生産・販売のプロセスも含め、自社の活動が社会に迷惑をかけていることはないか、絶えず社会を観察し、ステークホルダーの声に耳を傾けている必要がある。これが広報・PR活動の第一歩の「広聴」である。そして自分の考え方、活動の姿を社会に向けてさまざまな手段で明らかにして理解を求めていく必要がある。「広聴」の結果、自らの行動に修正すべきところがあれば、すぐに修正する。その相互のコミュニケーションと行動が広報・パブリックリレーションズ(以下PRと略す)活動である。

ステークホルダーたちは、その企業の製品・サービスや広告、新聞・雑誌の記事、噂、トップが外部に示す理念や行動、社員の接客態度等々、彼らが日常で接する情報から自分なりの企業イメージを持ち、それが集積してその企業のレピュテーション(評判、声価)を形成するのである。これらの企業行動のどこかにアンフェアー(不公正さ)な行動や隠蔽体質を感じとれば信頼感は得られないだろうし、常にオープンに情報を開示する企業に対しては信頼感を強めるのである。

広報・PR部門の業務は、企業内の上下左右のコミュニケーションの風通しがよい企業文化・風土を醸成し、社会から信頼される企業になるための計画を立て、全社的にその考え方を理解・浸透させると同時に、自分が中心になって、社会とのコミュニケーション活動を実践することである。

次に広報の機能について簡単にまとめておく。

① 社会との共生を図る
② 企業の社会的認知(コーポレート・レピュテーション)を促進する
③ 社会からの企業への要望を聴く
④ 自社を取り巻く社会・経営環境を把握する
⑤ 企業文化の構築・改革を図る
⑥ 以上の活動によって業績の向上に寄与する


広報・PRの基本

米国有数のPR会社の創業者ハロルド・バーソンは次のように語っている。──PRという仕事は、はじめは「いかに社会に語るべきか」だったが、次第に「何を社会に語るべきか」に変わってきて、今日では「何をなすべきか」になっている──。広報・PRとは表現の方法や技術ではなく、企業は何をなすべきかまで考えることを期待されるようになっているのである。

社会との接点を最も広く持たなければならない広報・PR部門は、このグローバル化の時代には視野をさらに広げ、地球環境や人権といった問題に配慮しなければならない。例えば、大企業の製品のパーツを製造する海外の中小企業が、そのパーツに環境汚染の危険がある物質を使ったことによって、その大企業の製品全体の品質が問われるといったケースが生じている。企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)が広く深く問われる時代になっている。

ますます複雑化するグローバル社会を見据えた企業理念と経営方針を持ち、積極的に情報を開示していくことによって、社会によい企業レピュテーションが形成されていくのである。


広報・PRの対象

広報活動の対象は、その組織となんらかの利害関係を持つすべての人々である。企業であれば、資本を提供してくれる株主・機関投資家、その情報に関連するアナリスト、製品・サービスを購入する顧客・消費者、従業員とその家族、政府や地方自治体、環境団体や消費者団体などNPO、工場のある地域社会等々があげられる。それらの人々すべてとコミュニケーションすることは難しいので、これまでは、社会の代表として新聞・雑誌・テレビなどマスメディアの人々の意見を聴き、こちらの情報も提供していたのである。これまで広報とは、マスメディアとの情報の交流が主要だとされてきたのである。

しかし多分野の情報の収集には限度がある。例えば、国際金融情報は財務部門から、得意先・消費者の情報は営業部門からなど、全社に必要な情報は広報・PR部門に入るようなシステムにしておくべきである。

社会が多様化し、かつインターネットの進展によって人々とのコミュニケーションの範囲が大きく広がり、ホームページ、ブログなどで、これまで接触できなかった人々と意見が交わせるようになった。同時に何かを隠しても、ただちにネットで明らかにされてしまうことにもなってきた。電子情報メディアにはかなりの注意を払わなければならない。


要求される戦略的思考

こうした複雑な社会を対象にする広報・PRパーソンには、経営者と同等の「戦略的思考」が要求されるようになっている。「戦略的思考」のポイントだけ述べれば次の4点である。

① 常に自分のおかれた環境を的確に把握し、自分を適応させていく
② 力を分散させず、優先順位の高いところに資源を集中する──選択と集中
③ 自社の強みを徹底的に活用する
④ 全員で1つの目標に向かう

そして広報・PRパーソンは、トップが定めた経営戦略をコミュニケーション面でバックアップする役割を持っている。社内には社内報、イントラネット、会議などで浸透を図り、対外的にも注目が集まるようにメディアに発信していくことを考える必要がある。

もう1つは広報活動を常に次の4つのステップで考え、行動していくことである。

① 状況分析 ─ 現在の問題は何かを明確にする
② 戦略立案 ─ 何をどのように伝え、実行すべきかの計画をつくる
③ 実行 ─ 計画を実行する
④ 評価・改善 ─ 結果を評価し、どう改善するかを考える


広報・PR活動の実際

① 社外情報の受信 ── 広報・PR部門はグローバルかつ5~10年の視野で社会・経済そして人間がどう変化するか、企業に期待されることは変わるのかなどを予測していきたい。そのためにはさまざまなジャンルの人たちと交流し、意見を交わす必要がある。世の中にはいろいろな意見の人がいることを実感してほしい。

② 社内情報の受信 ── 内部のことを熟知すること。企業が目指す方向は?トップがいま考えていることは?社員たちの不安は? さまざまな社内情報が入ってくるチャネルをつくっておくこと。

③ 社外・社内情報の社内への発信 ── 規模がちょっと大きくなっただけでトップの方針も内部へ浸透しない。イントラネットの普及によって迅速な経営情報の共有は可能になったが、かえって情報のカオス状況も生み出した。イントラ、印刷社内報、トップも交えた社内集会を組み合わせて、上下左右の自由なコミュニケーションができる場づくりも広報の仕事である。もちろん社外の情報を適宜、トップはじめ社内に入れていくことは最重要である。自社の行動がなんらかの形で社会にマイナスをもたらしている情報が入れば、その行動を修正することをトップはじめ社内関係者に勧告すべき役割も持っている。

④ 社内情報の社外への発信 ── 新聞・雑誌・テレビなどマスメディアへの情報発信、いわゆるパブリシティで、従来から広報部門の主要業務とされてきた。大事なことは、メディアの背後にいる人々の生活やニーズを考えた情報を発信することであって、自社中心の発想で情報を出さないことである。

 

危機における広報・PR

どのような組織にも危機の可能性はある。危機管理は全社的に向かい合い、どこにその種が存在するかを発見するのは全社あげての仕事である。危機管理で最も重要なことはコミュニケーションであって、広報がその中心である。危機に至る可能性があることは必ず報告させ、トップに伝えること。報告をしなかったことによって大事に至った事例は数多く存在する。広報は社会に迷惑をかけたことを中心に考え、自社に傷がつかないように行動してはならない。

広報・PRパーソンは自分の組織を客観的に社会の目で見る必要がある。しかし、危機にはとかく自分を見失うことがあるので、第3者的立場に立てるPRコンサルタントなど外部専門家に加わってもらうことも考えるべきである。


戦略パブリックリレーションズ(PR)

20世紀は新聞・雑誌・テレビを中心とした“マスメディアの時代”といわれ、広報・PRもこれらメディアを通じて情報を社会に提供することが多かった。ところが、20世紀の終わりから、部数や視聴時間が減少し、それを支えてきた広告も効果が薄れてきたといわれるようになった。もちろんその背景に、インターネットなど電子情報通信技術のパーソナル化があるのはいうまでもない。たしかに、新聞・雑誌の部数、テレビの視聴時間は減り、広告も減少していく一方、ネット広告が増えてきている。

またホームページ、ブログあるいはSNSなどのソーシャルメディアによる個人の情報受発信が可能になることによって、これまで受け身で、マスメディアを経由して提供される情報を選択するしかなかった人々が、情報における主体性を獲得したともいわれている。

それによって、これまで経済・社会・地球環境などいわば“パブリック(公共性のある)”な情報を敬遠してきた人々が、ブログやSNSなど身近なメディアの意見によって触発され、関心を持ち始めるという現象が現れた。そこから、これまでのマスメディアによってつくられるオピニオンリーダーとは異なる新しいオピニオンリーダーたち(最近ではインフルエンサーといわれる)が誕生し、世論の形成に影響をもたらすようになった。インフルエンサーとのコミュニケーションに参加した人は、次に自分がインフルエンサーとして新たに次の人に伝えるというように、世論形成の連鎖が始まる。これまで世論はマスメディアによってつくられるものだったが、広報・PRパーソンによって創出しようというものといえるだろう。

そうした状況の中で、21世紀に入ってから特にマーケティング分野において「戦略パブリックリレーションズ(PR)」という言葉が聞かれるようになっている。これまで書かれたものから簡単にまとめてみると、次のようになろうか。「これから売りたい商品を、公共性、ニュース性のある場に位置付けてストーリーをつくり、上にあげたSNSなど新しいメディアを通してまず設定したターゲットに認知させることによって、その商品が受け入れられる社会的な“空気づくり”をするもの」である。


求められる強い倫理観

当協会HPに日本パブリックリレーションズ協会が制定した「倫理綱領宣言」が掲載されている。パブリックリレーションズは、人々とのコミュニケーション活動を通して人々と組織を信頼のきずなで結ぶことを目的とするが、ときに事実を誇張したり、事実を曲げたりした情報を発信することによって、人々を操作し、自組織を有利に導こうと図ることがある。その事実が社会に明らかになれば、社会から厳しく指弾され、組織の生命に関わることもある。この倫理綱領を実践する者のみが、広報・パブリックリレーションズに携わる資格を有することを指摘しておきたい。


コーポレート・コミュニケーション・センターへ

企業・PR部門の仕事は、これまでマスメディアへの対応が中心のように考えられていたが、企業環境が激変する中で、IR、コンプライアンス、社会貢献活動まで活動範囲が広がってきている。しかも常にグローバルな視野で自らの組織を考える必要に迫られている。そのため、最近では、コーポレート・コミュニケーション本部として関連業務を集中し、CCO(Chief Communications Officer)が統括する企業が増えつつある。トップの経営戦略の立案・実行を補佐する重要な業務にならざるを得ないのである。


執筆=猪狩誠也(東京経済大学名誉教授)

このページの先頭へ