グランプリ

事業主体:株式会社井之上パブリックリレーションズ
エントリー会社:株式会社井之上パブリックリレーションズ
応募カテゴリー:ソーシャルグッド


新型コロナウイルスの感染拡大で史上初の緊急事態宣言が発令された2020年4月、井之上パブリックリレーションズ(井之上PR)はすべての企業・団体にパンデミック時の広報対応の指針や知見を提供すべく、『新型コロナウイルスに関する危機管理広報初動マニュアル』を作成。1,000社以上への無償配布を実施した。

「パンデミック時の広報」について多数の企業が不安に

日本初の緊急事態宣言が発令されていた2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な状況であった。PRSA(米国PR協会)ではコロナに関する広報のナレッジを公表していたが、日本ではまだコロナ禍におけるPR・広報の指針となる知識や情報の提供が不足しており、井之上PRにも「パンデミック時の広報」についての問い合わせが届いていた。そこで、井之上PRのクライアントを中心とした数十社へのヒアリング調査を実施したところ、多数の企業が従業員感染時の情報公開の仕方などに不安を抱いている状況を改めて認識した。

本質的な「パブリック・リレーションズ」発想を軸とした対応マニュアルを作成

ヒアリング調査実施後、井之上PRによる本マニュアル作成および無償提供を決断。危機管理の専門家である白井邦芳社会情報大学院大学教授に監修を依頼するなど、速やかにマニュアル作成チームを編成。目まぐるしく変化する状況に対応するため、本質的なPR発想を軸とした汎用性の高い内容のマニュアルとし、それぞれの企業、団体の事情に合わせて柔軟にカスタマイズできる構成にした。また体外的なPR対応方法に留まらず、従業員が慣れないテレワーク環境を強いられ、より大きな不安を抱いている状態であることを考慮し、エンプロイー・リレーションズの視点も多く盛り込んだ内容とした。

様々なPR手法で普及させ一刻も早く企業現場に

完成したマニュアルを可能な限り多くの方に活用していただくため、メディア、アソシエーション、アカデミックそれぞれとのリレーションズ形成をフェーズごとに実施する戦略をとった。まずは、プレスリリースの作成・配信と、日頃から関係構築している信頼できる記者との個別取材など、PR活動の基本となるメディア・リレーションズを集中的に実施。マニュアルの中身や、無償提供するにいたった経緯、マニュアルをどのように活用すると良いかなど、多くのユーザーの方に利用しようと感じてもらえるメッセージ発信を行った。本マニュアルの利用者として特に想定していたのが、PRに慣れていない全国の中小企業であったため、中小企業が多く加盟している日本商工会議所と連携し、危機管理広報セミナーを実施。「PRの本質的な考え方」について解説し、マニュアルを手にとったユーザーが十分に活用できるように配慮した。また、最前線で奮闘していた医療機関を守るためにも、病院経営者とともに日本マーケティング学会の医療マーケティング研究会に登壇。医療機関へのマニュアル拡大とともに、効率的にマニュアルを生かすためのPR発想の周知にも努めた。

無償提供を実現し、全国にPR業界の社会的価値を詳らかに

2021年1月現在、把握できているだけでも1,000を超える企業や団体への無償提供を実現し、そのうち約6割がターゲットとしていた中小企業や医療機関となっている。マニュアルを無償提供した企業に実施したアンケートの中で、半数以上が「自社用マニュアルの作成、見直しや比較などに活用」したことが分かった。また、「広報マニュアルはあるが更新されていない」あるいは「広報マニュアル自体がない」という企業がほとんどであったことも、このアンケートを通して判明した。このような声からも、PRの考え方や 危機管理広報体制の基盤づくりに大きく寄与することができたと確信している。
本プロジェクトは、新型コロナが流行し始めた混沌とした状況の中、チーム全員が通常業務を抱え、そして完全テレワークに移行したばかりの状況でスタートした。これまでのようなコミュニケーションが取れない中で、困難も多い状況であったが、PRが今こそ社会に必要であるという確信の下、一刻も早く広報現場に本マニュアルを届けるという使命感を持ち、短期間での作成に向け社内外のチームで結束し、実現できた。
私たちは、パブリック・リレーションズは世界をより良い方向へ導くことができる強力な手法であると考えているが、本プロジェクトを通じてその力の一端を改めて強く感じることができた。本文の執筆現在も新型コロナウイルスの猛威は継続しており、引き続きPRが果たす役割は大きい。今後も、コロナ以外の緊急事態にも企業や団体が柔軟に対応できるよう、本マニュアルの内容に留まらず、ベースとなるPR発想を日本社会に啓発し、根付かせる活動を続けていきたい。

文・株式会社井之上パブリックリレーションズ 関口 敏之


Voice from SUPERVISOR

社会情報大学院大学 白井 邦芳 教授

未曾有のコロナ禍の中、国がクラスター発生防止のため濃厚接触者を追跡する方針を固め、拠点や一部の感染者情報を開示したことから、個人情報保護の視点とのせめぎ合いが始まりました。それは、同時に企業広報としての公衆衛生上の感染情報開示と従業員のプライバシーを守る視点との混乱にもつながりましたが、このマニュアルが起点となり情報開示の在り方が整理され、多くの混乱は避けられたものと認識しております。

Voice from STAFF

株式会社井之上パブリックリレーションズ 執行役員 髙野 祐樹

新型コロナウイルスは全世界が同時に緊急対応を迫られている極めて困難な課題です。PRに携わる人間として、本プロジェクトを通じて広く社会に貢献できたことを誇らしく思うとともに、PRが持つ可能性を改めて強く実感しました。特に緊急時のPR・広報対応においては、手法論ではなく本質的なPR発想と平時からの関係構築が鍵になります。攻守に必須の経営資源であるPRが果たす役割は、ますます拡大していると感じています。