※所属・肩書は2023年7月20日時点

審査委員長

本田 哲也 

株式会社本田事務所
代表取締役

コロナ禍の終息を迎えることができた今年は、昨年に引き続きおよそ100件のエントリーをいただきました。日本社会におけるパブリックリレーションズへの理解と関心が進み、多様な取り組みが生まれていることの証だと思います。

審査委員長として、今年は、昨年に引き続き以下の3つの審査にあたっての視座を示させていただきました。

1、「パーパス(社会的存在意義)」はあるか?:
社会に向き合った、社会的な意義のある活動になっているか。

2、「自分(たち)らしさ」が感じられるか?:
当該企業/ブランドがその活動をするオーセンティシティ(正当性・真正性)があるか。

3、「巻き込む力」は発揮されたか?:
多様なステークホルダーを巻き込み、共創が起こるような設計がなされ、活動の持続性につながっているか。

本年は喜ばしいことに、エントリーが実に「粒ぞろい」の印象で、上位受賞の決定には審査団も悩ましい判断を迫られたと思います。とくにゴールド以上の3エントリーはどれも評価が高いものでした。そのような中、見事にグランプリに輝いた、株式会社On-Coの「非流通空き家を借り手の想いで動かす『さかさま不動産』~逆転の発想で挑戦を応援するまちづくりへ~」は、社会課題に見出した斬新なPR発想が大きく評価され、審査委員の「満場一致」をもってグランプリ選出となりました。

グランプリ受賞プロジェクトのコンセプトでもある「さかさま」は、パブリックリレーションズの本質的な視座のひとつでもあります。世の中に横たわる様々な課題を「さかさま」から捉えることで、新たな景色が広がることがある。まさに、このように社会を捉えることこそ、これからのPRプロフェッショナルに求められる、重要なアプローチだと思います。あらためて受賞された企業・組織団体の皆様に敬意を表し、これからも日本のすべてのパブリックリレーションズの取り組みが素晴らしい成果を生むことを願っています。

審査員(氏名50音順)

伊東 由理

LINEヤフー(株)
執行役員 コーポレートコミュニケーション統括本部長

今回グランプリとゴールドを受賞した案件は、社会課題に向き合いビジネスやコミュニケーションを展開し、さらにPRとしての高い技術が発揮されているものでした。こう書くと、難易度が高く感じるかもしませんが、その起点は、業界やステークホルダーへの深い理解と熱い想いだったように思います。改めて、素晴らしい成果には、ご担当の方の”強い使命感”がある、ということを認識させられました。
どのPRパーソンも、社会や会社をより良くしたい、担当するサービスやクライアントの役に立ちたい、そんな想いを持っているのではないでしょうか。PRパーソンが、それぞれの使命感を形にしていく際、このアワードが皆様の刺激や学びの一つになることを切に願うとともに、エントリーくださったすべての皆様に感謝申し上げます。

金山 亮

デロイト トーマツ グループ
Clients & Industries / Brand Marketing
執行役員 パートナー

PRの最大の醍醐味は、新たな「つながり」の創造にあると考えます。自己の主張と世間の関心事との接点に一工夫して「共通の土俵」を設けることで、元々縁もゆかりも無かった人や組織が「仲間」としてつながり、一緒に声をあげて行けるようになります。さらに、そうした発信が新たな顧客や協力者を呼び込む形で、関心事や目標を共有する数多くの「仲間」とのつながりを作っていきます。
今回受賞対象となったエントリーは、グランプリに輝いた「さかさま不動産」を筆頭として、このような新たな「つながり」の創造に関して示唆に富む内容のものばかりで、初めて審査委員として参加した私は、審査の枠を超えて言い尽くせないインスピレーションを受けました。惜しくも受賞を逸したエントリーの中にも、ユニークかつ戦略的な「つながり」の創造を通じて、人々の常識や思い込みの壁を乗り越えてビジネスや社会を変革しようとする意欲的な試みを数多く見出すことができ、大変刺激を受けるとともに心強く感じました。
今回エントリーされた皆さんのこうした熱い想いや新たな「つながり」を生み出す知恵と行動が、様々な領域でより一層力強く発揮されていくことが、長らく日本を覆いつくしている閉塞感を打ち破り、希望ある未来を切り拓く原動力になると信じています。PRの社会的な意義や今後に向けたポテンシャルなどについて様々に想いを馳せる機会となり、私自身、本アワードの審査に関わる機会をいただけたことを深く感謝しています。どうも有難うございました。

北見 幸一

東京都市大学
都市生活学部/大学院環境情報学研究科 准教授

私も所属する日本広報学会では、2021 年から約2年間かけて議論を行い、広報の定義を2023年6月に公開しました。定義では「広報とは、目的達成や課題解決のために、組織や個人が多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である。」としています。この定義では、広報はパブリックリレーションズと同じ意味を持つ概念として捉え、基本的に同じものとして使っています。今年のPRアワードグランプリの数多くの作品を見て、まさにこの定義が具現化されたものが、上位に入賞していると実感いたしました。エントリーした団体のPR活動は、ステークホルダーと社会的に望ましい関係を構築・維持するのに、どれだけ貢献しようとしているのかが分かりやすかったように思います。

小林 正史

株式会社プラップジャパン
戦略企画部 部長

世の中のあらゆる分野で地殻変動やパラダイムシフトが起こり、良くも悪くも「常識を疑う、ニューノーマルを受け入れる」ことに社会が慣れてきた近年。この社会風潮を追い風にして「視点や立場を変えて物事を捉え直し、価値の再定義を促す」というPRの特技が大いに発揮されたエントリーが今回多数集まり、大変刺激を受けました。
全体的に質の高いエントリーのおかげで、今回の審査会は(悩みながらも)荒れることなく受賞案件が決まりました。が、個人的には賛否両論で審査が紛糾するような異端児的エントリーにも期待しています。
また今回受賞を逃したエントリーにも素晴らしいアイデアが多数見られました。本質的な課題解決を図るために継続的かつ複合的な展開を評価するのもこのPRアワードの特徴ですので、ぜひ継続発展させた形での再エントリーに期待しています。

塚本 幸代

株式会社電通PRコンサルティング
経営企画室 部長

PRで事業成長を実現させている多くのプロジェクトに出会い、改めてPRの醍醐味とワクワクする未来を感じることができました。中でも、グランプリの「さかさま不動産」は、社会の仕組みを変えるという事業チャレンジを、PRパーソンの磨き抜かれた“技”で見事に事業をドライブさせている経営×PRを象徴する取組みだったと思います。
情報/ストーリーを設計し、表現し、届ける方までのコミュニケーションのすべての工程において、伝えたい相手(ステークホルダー)が反応する緻密な設計ができるか。そして、その緻密な設計に基づき、丁寧にそして情熱をもって行動すること。それこそが、PRパーソンの“技”であり、関係づくりを目指すパブリックリレーションズの本質であり、社会を動かす大きな原動力になるのだと感じました。
受賞されたみなさま、おめでとうございました。また、このような機会をいただきありがとうございます。これからも、みなさまと共に新しいチャレンジをしながら、PR業界の発展にご一緒できることを楽しみにしております。

河 炅珍

國學院大學
観光まちづくり学部 准教授

審査に携わって3年目になりますが、今年もPRのあり方について深く考えさせられる機会となりました。インパクトがあり、洗練されたプランニングが増え、PRの進化を感じさせるエントリーが数多くありました。とくに、社会課題を軸にする事例が圧倒的に多く、業界全体を通じて社会とPRの関係が明確に認識されていることを物語るように思います。その一方で、去年の講評・コメントでも書かせていただきましたが、社会課題を狭い意味での戦略的道具ととらえる事例も少なからずありました。PRのミッションは、顧客の問題を解決することだけでなく、社会と他者の声を真摯に受け止め、共に生きる環境を作っていくことにもあると思います。PRの進化をより確実なものにしていくためにも他者に対し、いかに誠実であり、信頼され続けるか、根本的な問いを見失わない姿勢が求められるのではないでしょうか。

浜田 敬子

ジャーナリスト
元AERA編集長

2023年も多くの応募をいただき、ありがとうございました。今回で3回目の審査となりましたが、この間「パーパス経営」という経営理念が浸透し、今回の応募作品、受賞作品にもそうした姿勢が反映されているものが多くなっていると感じています。一方で、ウォッシュ的な事業やサービスも増え、内容が伴わないにもかかわらずPR的に「上手く見せる」ことによってそれらしく見せることも可能になっています。今回受賞された作品はまずその事業やサービスが社会に対して誠実であることはもちろんですが、PRとしての誠実さも感じました。特に大賞を受賞された「さかさま不動産」は事業のユニーク性、課題解決ファーストの姿勢が際立っていただけでなく、企業方針やサービスを広めるPR戦略も素晴らしかったです。

牧 志穂

株式会社博報堂
PR局 プラニング二部 部長
チーフPRディレクター

今年の受賞作品のいくつかに共通して、「当たり前を疑い、よりよい社会に向けて提案していく」というムーブメントを感じました。「不動産って大家が情報開示するものなの?」「オフィス賃貸の敷金を払うのは当然?」というように、これまで当たり前に行っていたけども、解決したい課題を踏まえると変化が必要な領域に手を付けていく。その際、賛同者を広げ、社会の合意を得ながら実装していく部分に、PRが活用されていました。課題解決がビジネスになる時代に、ますますPRパーソンの活躍の場が広がっていきそうです!

横田 和明

株式会社井之上パブリックリレーションズ
執行役員

受賞された皆さま、おめでとうございます!

パブリックリレーションズの企業経営や社会における役割とこれからの可能性を示すエントリーが多く、審査会では白熱した議論でした。

評価の高いエントリーは、エントリーシートの精度が高いことはもちろん、基本の徹底が見られ、プレゼンと合わせて聴くと以下の要素が浮かび上がってきました。
・時代や社会の潮目を読む/現状の把握
・目指すべきビジョンの設定
・誰のペイン/ゲインに向き合うのか
・課題解決で必要になる様々なステークホルダーの押さえ
・対話や双方向性コミュニケーションの中で柔軟に対応していく
・変化や予想外の事態も起きる中で新たに現れるステークホルダーも察知しながら、向き合って関係構築していく
・日々の地道な積み重ね

その上で、今年は「視点の転換」を意識したエントリーが多いと感じました。
・これまで負債や損失を生むと思われた存在を社会的資産に転換する
・虚実や有無の捉え方を転換し、「実」だけを追求するのではなく、むしろ「虚」の状態を活かす、あえて作り出して活用する

これらの視点の転換で、新たな価値づけを進めるパブリックリレーションズが求められていることを感じます。

惜しくも今回は入賞を逃したエントリーシートについても、今後の展開や実績の積み重ねが期待できるものが多かったです。来年度以降もぜひトライいただきたいです。