※所属・肩書は2024年12月11日時点

審査委員長

 

本田 哲也 

株式会社本田事務所
代表取締役 PRストラテジスト

本田審査委員長全体講評コメント
表彰式・受賞者プレゼンテーション
2024年12月11日時事通信ホールにて

本年度も、昨年に引き続き、たくさんの質の高いエントリーをいただきました。日本社会におけるパブリックリレーションズへの理解と関心が進み、多様な取り組みが生まれていることの証だと思います。

審査委員長として、今年は、昨年に引き続き以下の3つの審査にあたっての視座を示させていただきました。

1、「パーパス(社会的存在意義)」はあるか?:社会に向き合った、社会的な意義のある活動になっているか。

2、「自分(たち)らしさ」が感じられるか?:当該企業/ブランドがその活動をするオーセンティシティ(正当性・真正性)があるか。

3、「巻き込む力」は発揮されたか?:多様なステークホルダーを巻き込み、共創が起こるような設計がなされ、活動の持続性につながっているか。

昨年に続き、実に「粒ぞろい」だった印象ですが、今年は一次審査の時点から上位入賞エントリーには高い評価が集中していました。見事グランプリに輝いた、株式会社マイナビの「アルバイトの立ちっぱなし問題解決を目指す『座ってイイッスPROJECT』」は、事業主体の社会的な立ち位置をブラさずに社会課題解決に向き合った、まさにパブリックリレーションズの「お手本」のような取り組みでした。そして、今年唯一のゴールド受賞となった、株式会社島田電機製作所の「無名だったBtoBのニッチな下請け町工場を、毎月2000人以上が殺到する人気企業に変えた“ファンづくり活動”」は、日本に数多く存在する、「黒子」のようなBtoB企業が挑戦した「全員広報」の取り組みです。この2エントリーへの高い評価は、審査委員全員の一致を見たものでした。

今年は、パブリックリレーションズとはどうあるべきか?と問いただされるような出来事も起こりました。だからこそ、本当に価値のあるパブリックリレーションズの姿を世に提示する本アワードの責任を踏まえ、審査委員一同は気を引き締めて審査に臨みました。あらためて受賞された企業・組織団体の皆様に敬意を表し、これからも日本のすべてのパブリックリレーションズの取り組みが素晴らしい成果を生むことを願っています。

審査委員(氏名50音順)

伊東 由理

LINEヤフー(株)
執行役員 コーポレートコミュニケーション統括本部長

パブリックリレーションズ(Public Relations)とは、組織とその組織を取り巻く人間(個人・集団)との望ましい関係を創り出すための考え方および行動のあり方である―これは、PR協会のホームページに書かれたPRの定義ですが、今年の受賞案件は、このことを実感させてくれる案件が多かったように思います。そして、その「望ましい関係」は、各社のPurposeに立脚しているのは勿論、目の前で起きているちょっとした「あれ?」や「やっぱりこの方が良いよね」に丁寧に向き合った結果紡がれたものでした。大きな動きや変化が起きる昨今ですが、目の前で起きていることを丁寧に、同時に直視し、「あれ?」を見過ごさない・やり過ごさないことの大事さを改めて、教えていただきました。
受賞された皆さん、おめでとうございました!

北見 幸一

東京都市大学
都市生活学部/大学院環境情報学研究科 准教授

私も所属する日本広報学会では、会員と約2年間かけて議論を行い、広報の定義を2023年6月に公開しました。定義では「広報とは、目的達成や課題解決のために、組織や個人が多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である。」としています。この定義では、広報はパブリックリレーションズ(PR)と同じ意味を持つ概念として捉え、基本的に同じものとして使っています。今年のPRアワードグランプリの数多くの作品を見て、まさにこの定義が具現化されたものが、上位に入賞していると実感いたしました。エントリーした団体のPR活動は、ステークホルダーと社会的に望ましい関係を構築・維持するのに、どれだけ貢献しようとしているのか、根拠を示したものが分かりやすかったように思います。

小林 正史

株式会社プラップジャパン
戦略企画部 部長/Group Planning Director

PRって本当におもしろい。
同じ想いを抱く皆さんから2025年も多数のエントリーが集まると嬉しいな。

HOWのテクニックより(それも大事だけど)WHYの鋭さの方が、私含めて審査員一同、大好物です。
「そもそも、なぜ今それをPRで社会に問いかける必要があるのか」一般論ではない独自視点からのイシューが設定されている企画を見たり考えたりして、一緒にエクスタシーに浸りましょう。

田上 智子

株式会社シナジア
代表取締役

PRアワードグランプリの審査は、大変楽しみでありつつ、身が引き締まる思いがいたします。私は今回、3年ぶりに審査会に復帰いたしましたが、前回以上にエントリーの「パブリックリレーションズとは」という視点が研ぎ澄まされていると感じ、日本のパブリック・リレーションズ業界がますます社会で重要な役割を果たしていることをうれしく思いました。24年6月のカンヌライオンズPR部門の現地審査時と同様に、コロナ禍後の社会がPRに求めているのはアイデアやクリエイティブ視点と、マルチステークホルダーとの関係作り視点の両立です。今回はグランプリ、ゴールドの二作品を始め、多くのエントリーにそうしたユーモアを含めたクリエイティビティの力で真面目な課題に向き合ったことを感じる作品が多かったように思います。本年、受賞された皆様、改めましておめでとうございます。 惜しくも受賞に至らなかったエントリーの皆様も含め、渾身の思いでエントリーシートをお送りくださった全ての方に感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

竹下 隆一郎

元 PIVOT株式会社
チーフ・グローバルエディター 執行役員

広報ファーストであるかどうか。私の審査基準です。
商品やサービスを作ったあと、ショートケーキの最後の「いちご」を乗せるような広報ではなく、ケーキをつくる初日からすべての過程に関わっている広報戦略のことです。

商品やサービスを作ろうとする第一回目の会議に、広報担当者が加わることで、日本の企業はもっとよくなると思います。軍事力や経済力ではなく、「言葉の力」が国際政治をも動かす時代。これからも日本の広報が発展することを願っておりますし、私も頑張ります。

河 炅珍

國學院大學
観光まちづくり学部 准教授

受賞された皆様、改めておめでとうございます。審査に参加して4年目ですが、今年もPRに対する理解が深まる気づきや発見が多く、私自身も勉強になりました。「PR会社」が世間の注目を浴びた年でもありましたが、その根底には現場で働く実務家と社会の間でPRをめぐる認識や理解のギャップが存在すると思います。実務家が「良いPR」を実践することはもちろん、何が良いPRなのかを社会に向けて説明する努力が求められる時代になっていると感じました。その意味で、今回の授賞事例は、これからのPRを考える上で重要なヒントを与えてくれると思います。

橋本 良輔

株式会社電通PRコンサルティング
統合コミュニケーション局 次長

一昨年、昨年と広報/PRおよびマーケティングの定義が刷新されました。そして、ソーシャルメディアは引き続き台頭しており、業務をする上でも業務領域やメディアの境界を明確にすることが難しい時代に突入したことを実感しています。今回エントリーされた作品も目的や手法、成果も広範囲におよぶものでした。どれも広報・PRとして存在感や成果を示しており、甲乙つけがたいものばかりで感動しました。その中でもグランプリのマイナビとゴールドの島田電機製作所は、実業の社会的な価値を軸にして、ステークホルダー資本主義ともいえる広範囲および中長期な視点で自ら行動し、ステークホルダーとのエンゲージメントまで実現したものとして、今後の広報・PRのあり方や可能性を示唆するものだと感じました。今後益々、価値観やコミュニケーションチャネルが多様になります。自社が何を社会やステークホルダーに提供できるのか、どんな課題を解決し得るのか、その解決に広報・PRの役割や期待は益々高まっていくと褌を締める思いを感じています。改めて、エントリーされた企業の皆さま、優れた広報PRパーソンの皆さまに御礼申し上げます。

牧 志穂

株式会社博報堂
PR局/局長補佐、チーフPRディレクター

ここ数年、「社会をより良くするために」PRの力を使い、古い商慣習の見直しや、エコ素材の普及、地域創生を進めた、といった好事例がグランプリ・ゴールドに並んでいましたが、今年は、「社会をより良く」はもう当然のこととして、「生活をより楽しくする」という気運が感じられました。残念ながら2024年、世界の平均気温は産業革命前から1.6℃上昇と、パリ協定の目標1.5℃をすでに上回ってしまい、生活環境は今後ますます厳しくなる事が予想されます。そんな中でも悲観的になったり、ひたすらに我慢するのではなく、少しでも良い社会、楽しい生活にしていきたい!というPRパーソンのこれからの未来に向けた意思の表れではないでしょうか。自分も一人のPRパーソンとして、微力ながら尽力していきたいと思います。

横田 和明

株式会社日本パブリックリレーションズ研究所
取締役副社長

ご受賞された皆さま、誠におめでとうございます。
また、今回エントリーくださった皆さま、エントリーシート1枚1枚から挑戦とその背景にある想いを感じながら拝読しました。日々の実務でお忙しい中、応募してくださったことに心から感謝申し上げます。

昨今、PRという言葉が曖昧かつ多義的、時に恣意的に使用される状況が散見されます。
本来、ビジョンや目的を達成するために、倫理観をもとに、双方向性コミュニケーションの中で、変化に柔軟に対応をしながら、様々なステークホルダーとの関係を構築していくパブリックリレーションズ(PR)。本年度も、その何たるかを示す取り組みが数多く入選されました。

ポストコロナを感じさせるインバウンドの回復や心身のウェルネスの追求、激甚化する災害対応、過疎化や都市化といった人口動態の変化や人手不足、人材の流動化が進む中での地域や中小企業、伝統企業が直面する課題、新市場創出を目指すスタートアップ企業の挑戦、SNSの普及や多様な価値観や意見がより可視化される中でのリスク管理視点でのコミュニケーションなど、現代社会の世相の一端が見えました。
また、短期で成果を挙げた事例だけでなく、5年以上中長期的に取り組みステークホルダーとの対話を重ねる施策も数多く見受けられました。

混迷を極める情勢の中で、課題解決をしながら、分断ではなく、社会的紐帯を高めていくようなパブリックリレーションズの実践が希望の灯火になっていくという思いが強くしました。

惜しくも今回は入賞を逃したエントリーシートについて、今後の展開や実績の積み重ねが期待できるものが多かったです。来年度以降もぜひトライいただきたいです。