※所属・役職は2021年12月14時点

審査員長

井口 理

株式会社電通PRコンサルティング
執行役員

今年のPRアワードグランプリはコロナ禍での2回目の開催となりましたが、前年とほぼ同数のエントリーをいただき、胸をなで下ろしました。昨年同様、「危機」を「機会」に置き換えた前向きな取り組みが諸所で為されていたようで喜びに堪えません。特に今年のエントリー募集時に「地味な活動でも中長期にわたる真摯な取り組みによってこそ達成される成果もある」と申し上げたところ、単年の話題づくりに留まらない、その積み重ねと継続の力を感じさせる案件が数多く手を挙げてくれました。これらの事例は他のアワードとは異なり、PRの取り組みならではの特徴を示すものとして非常に見所のある内容でありました。
PRを含め、コミュニケーションにもトレンドというものが存在すると思います。こぞって企業が莫大なコストを掛けてCI/VIを敢行したこともありましたし、マーケティング支援としての戦略PRが脚光を浴びたときもありました。直近で言えば、ソーシャルグッドや企業のパーパスを接点としたコミュニケーション・アプローチがそうではないでしょうか。
どれも時代を反映したものですし、社会や生活者から求められているものと合致しており、決して間違っておらず、また個別の目的達成においては今もってそれぞれが正しい選択でもあります。
そういったトレンドを学ぶ一方で、それらの取り組みを支えるPRの実施スキルの進化は、自身で実践し、それを改善していくしかありません。
またそれら取り組みを総体として評価するKPIにおいても絶対的基準はなく、自身の積み上げてきた過去実績との相対的な評価でしかないと思います。すなわち、いかに自問自答し、自らを以前よりも高めていけるか、それがやはり大切なのではないかということです。

本年グランプリを獲得した国立研究開発法人「物質・材料研究機構(NIMS)」様の活動は、決して新しいこと、突飛なことへのチャレンジで人々の耳目を集めたり、その成果を成し遂げた訳ではなく、常に自問自答しながら、その解へ辿り着いたという好事例だったと思います。
日本の輸出額において自動車と肩を並べる素材産業ですが、若手科学者人口の減少は由々しき問題です。宇宙やロボット、ITといった領域に比べ地味に思われがちな素材産業に、どう関心を持ってもらえばいいのか。その自問自答の末、「研究成果」よりその過程にある「科学が持つ、人を感動させる力、発見のわくわく感」をフィーチャーし、その魅力を伝えていくことに注力されました。そのプラットフォームのひとつとして、若年層向けのトップメディアとも言えるYouTubeにチャンネル「まてりある’s eye」を立ち上げました。自分本位でなく、見る側の視点に立ったコンテンツを提供することで真に楽しませ、記憶に残す、そんなコミュニケーション環境が段々と整備されていったのだと思います。
またそのコンテンツをオープンソースとし、複数の科学館や高校・大学の授業で活用してもらうなど、まさに重要なステークホルダーをハブにしてコンテンツが行き渡る仕組みが構築されたことも効果を後押ししました。結果、コンテンツの視聴回数は1本当たりの数値であのJAXAの10倍を数えるなど、華やかな研究領域に大きく優る成果を生み出しています。
7年に渡る若者とのリレーション構築の模索の果てに辿り着いたスキームと成果は、まさに研究者然とした、飽くなき探究心が成し得たことなのだろうと納得させていただけるものでした。なによりエントリーシートにあった「代理店等の力なしに、すべてを研究所職員のみで遂行した、材料分野の危機感と情熱のみをエネルギーとする自前の長期プロジェクトである」の言葉にやられてしまいました。(笑)まさに広報・PRの力を信じ、自らやりきるその覚悟と忍耐力に頭が下がる思いです。もちろん、そこまでの情熱を誰もが持てるわけではありませんが、このPRというまだまだ進化の可能性のある領域で、自身が熱くなれることが山ほどありそうな気がしていて、「ワクワク感」を抑えられない今日この頃です。プレゼン時の「これが同様の研究機関などに知れ渡り、各所が広報・PRに目覚めるそのきっかけになれれば」という言葉に審査団も涙したものです。

私が審査員長を務めてきたこの3年。2019年度グランプリの大阪・茶山台団地がその過疎化に対して住民と共に再生に取り組んだ地域プロジェクトや、2020年度のダブルグランプリ、ダイキン工業様が長年掲げてきた企業スローガン「空気で答えを出す会社」をまさに具現化する活動でコロナ禍に成果を上げた事例と、井之上PR様がPR会社の果たすべき役割としてコロナ禍のリスク管理初動マニュアルを無料配布した事例、そして今回。各年の非常に象徴的な取り組みを審査員の方々との徹底議論を通じ、最終的には全会一致で納得感のある選出が出来たと自負しています。またそれら事例のエッセンスがしっかりと理解され、引き継がれ、各者のエントリーに見え隠れしていることもうれしい限りです。
日本パブリックリレーションズ協会がこのアワードを主催・継続されている本来的な意味と意義がこれからも果たされることを信じてやみません。毎年言わせていただいておりますが、今年も審査を通じて自身がたくさんのことを学べたことにも感謝しております。

共に新境地を拓いて参りましょう!

審査員(氏名50音順)

阿久津 聡

一橋大学大学院
経営管理研究科 教授

今回は、東京オリンピック・パラリンピックがあり、withコロナが続く中での開催となりました。その影響としてスポーツやコロナに係る社会課題の解決が多くみられた一方、コロナ前から脈々と続く活動や海外での啓蒙活動もあった。
多様なステークホルダーを巻き込む程度や活動の継続性など、審査では多様な視点から議論がなされました。昨年同様、受賞作品には、理念の中でも社会的な意義の高いパーパスを拠り所として発信し、ステークホルダーからの共感を得ているものが多かったように思います。
今回もまた、審査員として素晴らしい作品に多く出会えたことに感謝しています。

太田 郁子

株式会社博報堂ケトル
代表取締役社長 共同CEO

今年初めて審査に参加させていただきましたが、専門性の高い方々が様々な分野から参加されており、ディスカッションを通じてPRの今日的役割や効果を学ばせていただきました。この場を借りて、審査員の皆様にもお礼申し上げます。
また受賞された方のプレゼンを通じて、テクニック以上に、担当される方の熱意や信念の重要性をあらためて痛感しました。
今年エントリーしてくださった皆様の仕事が、熱意の渦でさらに多くの人を巻き込んで、成長していくことを期待しています。

岡本 浩之

くら寿司株式会社
取締役 広報宣伝IR本部長

今回、各賞を受賞された皆さま、おめでとうございます。また、エントリーいただいた各組織の皆さまもありがとうございました。
今回初めて、こうしたアワードの審査に携わらせていただきましたが、皆さまのPRにかける熱意と創意工夫に触れ、私自身もさまざまな形で触発され、インスピレーションをいただきました。
時代的な背景もあり、多くの応募案件が「Social Good」に絡めた文脈での情報発信となっていたことは印象深かったです。この時代のPR活動は、社会とのかかわりなしでは成り立たないということを改めて認識させていただきました。この風潮はますます強くなっていくように思いますので、今後は、社会とのかかわりをどのような切り口でストーリー化していくのかなどが、それぞれの組織の創意工夫の見せ所になってくると思います。今後のPRの発展の方向性にますます期待しています。

髙野 祐樹

株式会社井之上パブリックリレーションズ
執行役員

withコロナの時代となった2021年は、守りから一転、パートナーシップや創意工夫で一歩を踏み出していく前向きなエントリーが多く、いちPRパーソンとして大いに刺激をいただきました。
今年の審査でも、活動内容と活動主体である組織や団体のビジョンやパーパスの両面の視点で議論が展開されました。根源的な「Why」が見えない表層的な活動は共感が得られないだけでなく不信感を招く傾向も強まっています。
今年はマーケティングPRも含め、本来的なPR視点を持ったエントリーが高い評価を得ていました。また、組織ではなく個人の情熱が大きな成果に繋がったエントリーが多いことも印象的でした。
今年受賞に至らなかった皆さんも、今懸命に取り組まれているお仕事をぜひ改めてエントリーしていただければと思います。

田上 智子

株式会社 刀
エグゼクティブ・ディレクター
ストラテジック・コミュニケーション

アワードを受賞された皆様、心よりお祝い申し上げます。僅差で受賞には及ばなかった作品も多くございました。すべての皆様に賞を差し上げられないことを心苦しく思います。
さて、本年のアワードですが、非常に特徴的なことがいくつかございました。一つ目は、グランプリをはじめ、上位に大学や研究機関が並んだこと。企業と異なり、研究機関としての使命感をパーパスとして取り組まれた素晴らしい事例が並びました。二つ目に、マーケティングカテゴリーの作品がほとんど上位に入れなかったこと、逆にマーケティングPRの作品でソーシャルグッドの要素がないものはほぼ見当たらない時代になってきたんだと感じました。最後に、多くの作品が担当する方個人の強いパッションに導かれているプログラムだったこと。二年ぶりに参加できた対面での授賞式では、ご担当者の熱い思いにふれ、PRの世界が「人の想い」によって強くなっていることを再認識いたしました。
結びに、本年も、珠玉の議論に関わる審査員を務めさせていただきましたこと、心より感謝申し上げます。井口審査員長をはじめとする審査団の皆様との議論は、PRパーソンとしてこれ以上ないほど緊張感のある素晴らしい経験となりました。日本パブリックリレーションズ協会のみなさま、特に事務局の皆様にきめ細かなサポートをいただき、コロナ禍においても審査会・授賞式を無事に開催できたこと、心より御礼申し上げます。

河 炅珍

広島市立大学 広島平和研究所
准教授

PRとは何か、その本質について改めて考えさせられました。
欧米の教科書などでは、PRは、企業だけでなく、様々な社会組織によって展開される活動と説明されますが、実際は企業の営利目的に通じる活動が主で、広告・プロモーションの一種としてPRを捉える認識が強かったのではないでしょうか。
しかし、今回のアワードでは、企業をはじめ、大学や研究組織、NGO・NPO、病院や医療機関、自治体など、様々な組織によるエントリーが集まり、活動の内容も極めて多彩であったことが印象的でした。また、環境やジェンダーイッシューへの配慮をはじめ、社会的価値を重視する傾向が見られたのも注目に値します。
こうした傾向は、PRが単にモノやサービスを売ることを超えて、社会や他者との関係性に軸をおくコミュニケーション分野として定着していることを物語っています。社会全体でPRに関する認識をアップデートしていく上ではまだまだ課題もあると思いますが、今回の受賞作をはじめ、最先端を行く組織の活動が今後の発展において里程標となってくれることを期待しています。

浜田 敬子

ジャーナリスト 元AERA編集長

企業の社会的責任とは何か、ということにより注目が集まるようになった時代を反映して、PRの内容や手法も随分変化してきていると感じました。むしろPRという手法だけでなく、そもそも事業そのものが社会の何の課題を解決しようとしているのか、さらにその企業の姿勢そのものがPRを通して問われるようになってきた、と言えるかもしれません。
今回受賞した作品は特にその傾向が強かっただけでなく、そのサービスや商品、もっといえば企業によってどんな課題が解決されるのか、という視座が高いことが特徴だったと思います。企業や商品のPRを通して、受け手が社会で今何が起きているのかということまで思いが至るようなもの、PRが一種の啓発にまでつながっているなと感じました。

松本 理永

株式会社サニーサイドアップ
取締役CBO
公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会
顕彰委員

コロナ禍での2回目のアワード。PR業に携わる身として世の中の変化を実感し続ける中、多くのPRパーソンがこの1年、どのように立ち向かわれていたのか、審査が非常に楽しみでした。
結果、どのエントリーにももちろんこの1年で変化したことの軌跡は表れてはいたものの、印象としてはそうしたものに翻弄されない骨太の企画が多かったように思います。長期的に、大きな目標達成に臨み、しっかりと成果を出している、PRパーソンに力を与えてくれるようなエントリーたちを受賞作として選べたことは審査をしながらとても嬉しかったです。
エントリーいただいた皆様、ありがとうございました。そして来年も、PRの力を見せつけてくださるような多くのエントリーをお待ちしています。

吉宮 拓

株式会社プラップジャパン
取締役 コミュニケーションサービス統括本部長

コロナ禍において2度目となるPRアワードグランプリですが、今回も熱のこもったエントリーを数多く目にすることができ、改めてPRの重要さ、力強さを実感した審査となりました。
エントリー全体の傾向としては、これまで以上に社会性を軸にした案件が増え、PR本来の考え方が浸透してきていると感じました。一方で、今や社会的な価値を打ち出さなければ受け止めてもらえない世の中とも解釈でき、この機運を汲み取った戦略性が一層重要であると認識した次第です。
またグランプリを獲得した国立研究開発法人 物質・材料研究機構様をはじめ、複数年にわたる腰の据わった活動が多く受賞に至りました。エントリー時には完了していなくとも、その着眼点や戦略性、現時点での成果を鑑みて、審査団として高く評価したものもあります。
こうした現在進行形の案件に対しアワードというかたちでエールを送ることができたことも、審査員の一人として意義深く感じています。