(2019 PR Yearbookより)

確かな理念を持ち、ユニークな活動で実績を生み出しているスタートアップ企業のなかから、注目の2社を、スタートアップ支援をされている、ナビゲーターの藤本さんに選んでいただきました。
株式会社アトラエと株式会社グッドパッチのCEO にご登場いただき、P︎R・広報の役割や理想をそれぞれの視点から語ってもらいました。(2019 年3月11 日)

  • 株式会社アトラエ 代表取締役 CEO
    新居佳英氏
  • 株式会社グッドパッチ 代表取締役社長 CEO
    土屋尚史氏
  • 一般社団法人at Will Work 代表理事、Plug and Play Japan 株式会社
    藤本あゆみ氏

今は、メディアに自分たちの良さをどん欲に出していきたい。
アウターへの情報の「量」は必要だが、「質」の検証もしたいと思う。
—新居佳英

PROFILE

株式会社アトラエ 代表取締役 CEO
「世界中の人々を魅了する会社を創る」(Attract People In The World)というビジョンを掲げ、どこよりも働きがいのある会社を目指している株式会社アトラエ。主な事業として、①転職を考える人と採用を考える企業の高度なマッチング・プラットフォーム、Green。②組織に対するエンゲージメントや組織の現状を、定量的/多角的に把握し、その結果を人材活用や組織改善にフィードバックするプラットフォーム、wevox。③人工知能を活用したビジネスパーソン向けの、人材マッチングアプリ「yenta」。それぞれ、人材を活用し、働くことの質や価値向上を目指す事業を展開している。働き方改革の流れのなかでメディアに取り上げられることも多くなってきている。2003年創業。

もっとデザインに投資する日本に。
もっとデザイナーが活躍する社会に。
インターナル・ブランディングも含め、P︎R力を活用していきたい。
—土屋尚史

PROFILE

株式会社グッドパッチ 代表取締役社長/CEO

「デザインの力を証明する」を理念とし、UI/UXをベースにしながら、社会の課題と向き合い解決を図るデザインカンパニー。クライアントの新規ビジネス、プロダクト開発、デジタルトランスフォーメーションのパートナーとなりユーザー体験の設計をすることが主な事業領域。狭義のデザインではなく、広義のデザインを目指し、企業のあり方やブランドの価値変革までを意図する。自社プロダクト開発としてビジネスパーソンが日々の業務のなかで抱えていた課題をプロトタイプを創ることで解決するツールも多くの企業に導入されている。デザインとデザイナーの社会的価値を上げることにも力を注ぐ。2011年創業、ベルリンなど海外にも展開している。

スタートアップ企業をもっと日本に生み出して育てていきたい。
挑戦するマインドを支援して、社会を変えていきたい。
—藤本あゆみ

PROFILE

一般社団法人at Will Work 代表理事
Plug and Play 株式会社

大学卒業後、2002年キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職、マネージャー職を経て2007年4月グーグルに転職。代理店渉外職を経て営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。株式会社お金のデザインでのP︎Rマネージャーとしての仕事を経て、2018年3月予定Plug and Play株式会社でのキャリアをスタート。現在はVP, Marketing / Communications として自社のP︎Rだけではなく採択スタートアップのサポートも担当。

藤本 P︎Rがプロモーションになっている企業が多いですけれども、そうではなくて、企業の価値を上げるブランディングをやっていらっしゃる企業ということで、CEOのお二人にお話を聞きたいと思います。
それぞれ自己紹介をお願いできますか。あわせて、会社で大事にされている文化をお聞きしたいと思います。

新居 アトラエは、ピープルテック・カンパニーと自分たちを定義しています。テクノロジーを通して、人の可能性を拡げるような事業をしていこうと考えています。
社員が「大切な人に誇れる会社であり続ける」こと。それが、僕らにとっていちばん大事な理念です。大切な人に胸を張って自慢できる組織であったり、事業であったり、仲間であったり、カルチャーであったり、そういう会社であり続けようというのが、上位概念にあります。具体的な組織づくりとしては、意欲ある人が無駄なストレスなく働き続けられる組織をつくろうということで、トライアンドエラーを繰り返しながらも前に進んでいる会社です。

土屋 僕らは一言で言うと、デザインの会社ですが、デジタル領域のサービスをクライアントと一緒に並走してつくっていく、デザインによって世の中の課題解決をサポートする会社です。UIやUXの領域がメインですが、実はそこに限定しているわけではありません。僕らは物事の根本的な価値を考え、上流の戦略や企画から入って、抽象的なものから具体的なものに落としていく、本来のデザインを目指しています。狭義のデザインではなく、広義のデザインから発想し、すべては「デザインの力を証明する」にひもづいた事業をやっています。

藤本 ありがとうございます。二社に共通しているのは 新しい概念に基づいた事業だと思いますが、新しいゆえ に理解していただくのが難しい面もあると思います。メッセージを外に出していくなかで、実際の取り組みの現状 はどうでしょうか。。

新居 いろんなメディアさんから注目をいただいていま す。最近は働き方改革の文脈が非常に注目され、日本全 体の働き方や会社のあり方が大きく変わってきているタ イミングです。そのような中で、テクノロジーによって人 の可能性を拡げるような事業を運営しているわれわれ が、長いこと特殊な働き方をしているのが大きいと思い ます。

藤本 働き方ということでは、社員一人ひとりがブログや SNSで発信するケースも多いと思いますが、何か管理さ れていますか。

新居 何もしていないです。何をやっているかも知らな いくらい(笑)。そういう意味では、自由奔放にやっていま す。ただ、誰かが読んで「これちょっとカッコ悪くな い?」っていうのがあれば、「これやめようよ」「会社として ダサいよ」とみんながなっていくというのはあります。

藤本 「カッコよくない」っていいですね。「ダサい」という 価値基準。 新居 こうあるべきだという会社側のルールをつくって しまうのは、あまり面白くないなぁと思っています。心か ら発信したいと思うことを発信すればいい。しかし、仲間 がいやな思いをしたり、カッコよくないなと感じるものは 出して欲しくない。社員のみんながそれを市場原理的に チェックする。それでいいかなと思っています。

藤本 グッドパッチさんはどうですか。工夫されている 点とか。

土屋 UI、UXという領域の認知がなかったので、その認 知を高めるために、創業当初からオウンドメディアを自分 たちで運営しています。それ以降も、海外を含め、自分たちのノウハウも含め、UI やUXはもちろん、デザインとは 何なのかをずっと発信し続けています。あとは、自分たちが企画したリアルなイベントも長く続けていて、集客力も 上がってきています。外部でセミナーをやる際には、資料 で不適切な文言とか、最低限の広報チェックはやります が、ガイドラインはまったくないですね。僕にいたっては 広報チェックすら通さないこともあり……(笑)。

藤本 社員のいろんな人が情報発信していく時代になる と、P︎Rパーソンの役割も変わっていくような気がします。 期待することは何でしょうか。 新居 社内の壁にもAttract people in the worldと書 いていますが、僕らは世界中の人々を魅了する会社をつ くる、というビジョンのもと、多くのファンをつくり出して いきたい。そのためには、事業はもちろん、組織、働き方、 考え方などさまざまなことを知っていただかないと結局 ファンが増えない。その先頭に立って、特にメディアとの コミュニケーションをとっているのがP︎R担当の役割だと思っています。だから、僕らがやっていることを、個別ではなく全部知っていることが、P︎Rにもっとも求められていると思います。

土屋 いちばんは経営者を理解してもらいたいというこ とです。この3年間くらい組織的にかなり拡大してきた んですが、すごくいろいろありまして。インターナル・ブ ランディングを失敗している会社なんです、うちは。その なかで、ほぼ僕とP︎R担当とでずっと戦ってきた。戦友み たいな感じですね。なので、この会社の文化の根底をしっ かりと知っていて、会社のストーリーもすべて把握してい て、会社へのオーナーシップとマインドシェアを持ってい て、社内外ともに発信をずっとしている。そんなP︎Rに本 当にお世話になっているのが現状です。

藤本 やはり思いがすごく強い企業だからこそ、P︎Rへの 期待があるんだと感じます。思いを汲み取ったうえで、そ れを的確に翻訳するということが、たぶん求められている ところかなと。
これを読まれている方で、今、うちにも広報・P︎Rの担当 者が欲しいと感じている方が多いと思いますが、こうい う人だったらP︎Rパーソンに向いているというのはありま すか。

新居 僕らの場合は明確で、ロイヤリティが高い人。先 ほど言ったことと重なりますが、会社のこと、事業のこ と、仲間や組織のこと、それに対して心から深い愛着を 持っている人です。戦略上どう伝えるかということ以上 に、自分が本当にこの会社を魅力的だと思っていること がまず大事だと思います。もう一つは、社内外の人とコ ミュニケーションをとれる人。事務仕事として広報を捉 える人よりは、コミュニケーションの仕事として捉えられ る人。

土屋 僕らもほぼ同じです。会社の信念は何か、何を目 指しているのかがWhyで、スキルややり方がHowだとす ると、そのWhyの部分を強烈に共感して信じ込んでいる 人じゃないとP︎Rはできないかなと。P︎Rとしての自分の キャリアやスキルにプライオリティを置くような人は、正直これからの時代は、P︎Rはできないだろうなって思って います。なので、会社の向かっているビジョンをCEOと同じくらいの熱量をもって信じている人というのが、いちばん大事ではないでしょうか。
それ以外は、これからの時代、自社で社会に対して発信していく上で、発信力と表現力は必要ですね。自社で物を書いてコンテンツを発信できるのはすごく強いと思うんです。自ら言語化して、社内でやっていることを翻訳して、それを伝える能力があるといいですね。

藤本 発信力と表現力。スタートアップの場合は特にストーリーをつくることがすごく大切ですから、その上でも その二つが重要かもしれませんね。これから、どういうカタチで、外にメッセージを出していきたいと思っていらっしゃいますか。

土屋 そうですね。オールドメディアに取り上げられることがそんなになくて、全然リーチできていないのは、反省点としてあります。Webメディアにはすごくたくさん 出てるんですが。会社の影響力がまだそこまでではない とも思っています。そもそもUI、UXもまだまだ認知とし ては低いし、その領域では、リーディングカンパニーとしての自負はありますけど、まだ十分ではないですね。先日も、ビジネスパーソン向けの、デザインをテーマにしたイベントがあって登壇したんですが、すごいスピードで定員 200 名の会場が埋まったんです。最初に、「グッドパッチ という会社を知っている人はいらっしゃいますか?」と尋 ねたら、数人しか手をあげなかった。えー!みたいな(笑)。 デザインというテーマで集まっているのに、知らないんで す。しかも、すぐ満席になったのに。全然リーチできていない、本当にまだまだだなと感じるとともに、逆に大きな可能性があるなとも思いました。

新居 結局は、僕らの領域ってまだ狭いですよね。ネットのベンチャー領域。そのなかではよく知られているが、広い領域ではまだまだ。

土屋 そうですね。

新居 僕らは、そこが主戦場なので皆に知られていると思って、金融に勤めている同級生に、「そういえばおまえのとこ何やっているんだっけ、ベンチャーだよね」と聞かれて、「あ、一応1部に上場しているけど」って答えたら、「え、 まじ!?」という感じで。金融界でも知名度なしですね(笑)。

土屋 ほんと、そうですよね。数年前にテレビに出たんです。ディレクターにカットされないように、「うちはUIの 会社なんです」と、しきりに強調したんですけれど、ばっさりカットでした(笑)。UIがわからないからですね、世の中 一般には。

新居 僕らはよく人材会社と言われますからね。そのたびに古臭いイメージはやめてくれと言っています。

藤本 売り上げとか新商品のほうが、ニュースバリューがあって取り上げられやすい。しかし、スタートアップとしては、目指すべき新しい領域や業界のために普及を頑張りたいが、一般的な理解がすぐには得られにくい。その近道と遠回りの関係性があると思うんですが、どう考えていらっしゃいますか。

新居 働き方改革の文脈のなかで、僕らの理念として、働く人たちがもっと豊かに幸せに生き生きとできる社会をつくっていこう、また、僕ら自身もそういう会社の代表としてロールモデルになっていこう、そういう思いを持っています。ですので、ほかの会社にポジティブな影響を与えたいとは思っています。いろんなイベントのスポンサーになったり、スピーカーとして登壇させていただいたり、 比較的積極的にやっているつもりです。

土屋 僕らスタートアップには、証明していく義務みたいなものがあると思うんです。一つの理念のもとに集まって、新しい会社をつくって、それで、社員が生き生きと働いている会社は、本当に伸び続けるんだっていうのを証明していくこと。そんなの子どものサークルみたいなもんだろうとか、よく言われましたけど、結局そういう会社は伸び続ける。
一方で、そうじゃない会社はどんどん疲弊していって、人が辞めていくということをきちんと証明していかないと日本は変わらないと思っているんです。ですので、頑張って声を上げ続けようとしています。

藤本 新しいサービスやプロダクツや事業を発信しつつ、会社自体やそこにいる社員の働き方で、正しい未来を証明していこうとしているんですね。そこには、デザインに対する強いこだわりもあると思います。

土屋 日本のデザインマーケット全体の経済規模を押し上げないといけないですね。日本のデザイン業への投資額は、経済産業省の統計では3200億円ぐらい。アメリカが 2兆円、イギリスが4000億円くらいあるんですよ(2016年)。 日本は経済規模のわりにデザインに投資していない国なんです。ここを変えなきゃいけないと思っています。最近出てきたデジタルの領域のUIとかUX、そこに関わる人たちを増やして、年収をあげていく、その思いは強いです。

新居 近道と遠回りの道、どちらでもいいから、今はとにかく道が大事だと思っています。いろんな人に会社を知ってもらうためには、規模に関係なくどんなメディアも大切 で、個々の露出の評価はあまりしていないです。それぞれがとても貴重なメディアだと考えてやっています。
ただ、僕らの実態をミスリードしてしまう記事の内容で あったり、僕らが伝えたいコンセプトが伝わらない出方をしたものに関しては、必ず反省をして、次回は同じパターンにならないように、どこでチェックを間違ったのかをちゃんと社内では精査し、議論しています。

土屋 インターナル・ブランディングの話もしたいと思います。実は、僕たちはインターナル・ブランディングのための社内向け情報発信の量がとても多いんです。社内のイベントなども含めてあらゆるものが言語化され、レポート化されて流れていて、そこの根幹を握っているのがP︎Rチーム。やはり今のグッドパッチという会社があるのは絶えず発信をし続けたからだと思うんです。先ほども言いましたけれども、組織が崩壊しかけたときがありました。だけど、発信をやめなかったんです。少しでも魅力になる部分を発信し続けていました。それが結局、エクスターナルにも影響を与えて、しっかりと採用力につながっていて、共感してくれる人たちがちゃんと応募してきてくれた。それができたのは広報・P︎Rの力だったと思います。

藤本 普通、そういった人を動かしたり、活かしたりするアクションは、人事だったり経営企画だったりが担っている会社が多いですよね。でも、P︎Rチームがどんどん中にも外にも発信していくことで、さまざまな組織や人をつなぐ役割を果たしていく。それは、価値あることだと本当に感じますし、熱量がある、ロイヤリティがある社員を増やしていく結果を生んでいく。熱量のチカラって、大切ですね。

土屋 そうです。そして、それを生み出すのは、根本的には会社の目的ではないかと思います。ビジョンやミッションが魅力的じゃないと、人は集まらないし、ロイヤリティも持てない。最終的に、そこに集約される気がします。

新居 飲食店の話なんですが、昔は立地がすごい価値を持っていて、駅前のいい立地に大きな店を構えると売り上げが自然に確保できた。でも、最近はネットでチェックしてから行くので、駅から遠くて家族だけでやっているお店でも、しっかりと魅力的な味の店をつくれば人が入るようになってきた。逆に、立地しか価値のない店は流行らなくなった。それと同じで、会社もさすがにもうバレ始めていると思うんです。いい会社と良くない会社とが皆もわかってきている。だから、本当に、実質的に魅力的な会社をつくらないといけない。

藤本 P︎Rをやっていて、大きな会社だから魅力的な情報を持っているかというと、必ずしもそうでないこともありますね。今の時代、バレるバレないという人の見る目も精度が上がってきていることは確かです。

新居 そう、やはり「心の声」が出てこないとバレちゃうんですよね、気をつけないと(笑)。「本当」がすごく大事で、本当にいい会社、本当にいいサービス、本当にいい人間をつくるしかないんです。それを、いい会社だと信じている人に広報・P︎Rをやってもらって、その人と試行錯誤して、「本当」に向かって進んでいくという話だと思います。

藤本 個人が発信していく時代で、わかりづらい情報や理解してもらえない情報を通訳して、正しい価値をつくって、熱量を伝えていくというのもP︎Rの仕事ですね。P︎Rがいい職種だと思うのは、経営者に近くて会社の「現在」を肌で感じることができるのと、いろんな人からいろんな話を聞く、情報のハブになれること。本当に会社のことをよく知ることができますね。今後はどうしていきますか。例えば、マスメディアの活用に関してなど。

新居 マスメディアの拡散力の強さは、まだまだありますよね。僕らはネットメディアしか見ないけれど、マスメディアのパワーは圧倒的だなと思います。特にテレビはすごい。そういう意味ではうまく活用していかなきゃいけないと思います。僕はあまり出たがりではないので、社員が、そういうところにポンポン出て欲しい。それが理想ではありますね(笑)。

土屋 人を活かしてこその経営者です(笑)。

藤本 今日は、P︎Rパーソンにとって貴重な話をありがとうございました。

取材後記

取材当日は、株式会社アトラエの秘書/広報担当の甲賀さく乃氏、株式会社グッドパッチの広報/P︎R担当の高野葉子氏も出席。やや心配げに、しかし、とても楽しげに社長のトークを聞いていらっしゃったのが印象的でした。「担当になったとき、『まずはインナーからやってくれ!』と言われて、P︎Rはアウターだと思っていたので新鮮でした」と高野さん。「えっ、そんなこと言ったっけ?」と土屋代表。一同、「笑」でした。新居氏の「P︎Rは経営者に近い」がまさに言葉どおり。特にスタートアップ企業にとっては欠かせない機能であり、絆を築く心のような作用をしているのだと思いました。(文責・編集部)