「スパイクスアジアから学ぶPRの潮流」

第一部:特別講演 

講師:(株)博報堂ケトル PRディレクター/ストラテジックプランニングディレクター 太田郁子 氏(スパイクスアジアPR部門審査員)

テーマ:Inside the Jury Room(講演と入賞作品評価)及びPR部門審査委員長インタビュー

 

第二部:プレゼンテーション

講師:(株)電通 コピーライター/プランナー 中川諒 氏

フリーランスプランナー/ディレクター 村石健太郎 氏

テーマ:ヤングスパイクスPR部門出場記

モデレーター:(株)井之上パブリックリレーションズ 執行役員 尾上玲円奈 氏

 

<講演概要>

毎年9 月にシンガポールで開催されるクリエイティブフェスティバル「スパイクスアジア」。そのPR部門から得られた知識を共有する目的で、PR部門の審査員をされた太田氏、「ヤングスパイクス」PR部門のゴールド受賞者である中川氏と村石氏を迎え、第一部・第二部に分けて講演が進められました。第一部では今年の審査基準や重視されたポイント、そして日本への期待について。第二部ではヤングスパイクス本選の課題への取り組み方や実際のアイデアについて伺いました。

 

◇第一部

 

―スパイクスアジアとは?―

Spikes Asia(スパイクスアジア)は、毎年9月にシンガポールで開催されるアジア地域最大級のクリエイティブフェスティバルです。世界最大級の広告賞としてよく知られている「カンヌライオンズ(正式名称:カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)」のアジア版とも呼ばれ、アワードだけでなくセミナー等の学びの場や参加者同士の交流促進など、いくつものプログラムが用意されています。

PR部門では200を超えるエントリーの中から、最終的に24作品がアワード受賞となりました(ゴールド5、シルバー8、ブロンズ11)。このうち日本からは、ゴールド1、シルバー1、ブロンズ4作品が選出されています。

―今年の審査における特徴―

2018年は、太田氏を含む女性7名、男性1名の計8名の審査員によって選考が行われました。昨年同様にリザルト重視な審査傾向は変わっていませんが、特に今年はその効果が持続的かという点を評価すると審査員長が宣言。概念・習慣・法律・公共制度など、不可逆なものを変えられたか。そしてその効果が長続きするかという点もリザルトに加えて重視されたそうです。

 

―日本の作品への評価―

審査員の間では、日本の作品に対しQuirkyという言葉が飛び交っていたそう。Quirkyとは、ある種の憧れを含んだ意味合いで「突拍子もない」「風変わりな」という褒め言葉とのこと。そういった観点からも、日本はソーシャルイシューものに限らず、突拍子もない風変わりなアイデアを他のアジア地域から期待されているようだというお話がありました。

 

◇第二部

―過去最多チーム数が参加した国内予選を勝ち抜き、そのままアジアNo.1に。「ヤングスパイクス」日本代表の挑戦―

「ヤングスパイクス」の代表も「ヤングカンヌ(正式名称:ヤングライオンズコンペティション)」と同様に、国内予選を勝ち抜かなければ日本代表として本戦出場ができません。今年は、過去最多となる172チームが参加する中、予選を勝ち抜いた2人。お互いにヤングカンヌでの代表経験・敗北経験を受けてのヤングスパイクス挑戦となりました。

今年の課題は、「THE ROHINGYA CRISIS」。世界最大の難民ロヒンギャに対する無関心層への認知拡大と継続、そして寄付の獲得でした。24時間という短い時間の中で、最終的に2人が提出したのは、難民の捉え方自体を変えてみようという「REFUGEENIUS」というアイデア。ロヒンギャの特徴でもある子ども難民に着目し、「子どもの数だけ才能の原石がある」と、意識を変革させることが狙いだったそう。アイデアの仕掛けとしては、難民出身のインフルエンサーを活用して才能の原石(=ロヒンギャの子ども)を発掘し、ソーシャルオーディションのような形式で子どもたちのパフォーマンスを見せ、一般人に投票してもらうという流れでした。実際に難民キャンプ出身のスターが多くいることに加え、アメリカでオーディション番組が人気であるというファクトをうまく活用したアイデアでした。

 

―他チームとの差別化と工夫。勝つための戦略。―

ブリーフの際に「アイスバケツチャレンジ」の話がよく出てきていたことから、ソーシャルアクション系のアイデアが多く提出されると考えた2人。それに対して特に強調したのが、「意識を変革させることによる継続性」。ただソ−シャルで拡散されるだけでは、ロヒンギャが難民であるという意識自体に変化はありません。それを才能の原石と置き換えることで、ポジティブな認識が生まれ、寄付へのモチベーションもかわいそうだからでなく、応援したいからと理由に変化します。また、その子どもたちが活躍するようになれば、「実は難民キャンプ出身」というファクトがさらなる認知に繋がり、継続的なサイクルとなると考えたのです。このシンプルでわかりやすいコンセプトが評価され、見事「ヤングスパイクス」ゴールド受賞となりました。

ブリーフをどう捉えるか、クライテリアに沿っているかなど、PRに限らないテクニカルな部分はもちろんあったようです。しかし2人の実務の中でもデジタルが当たり前になってきたのと同じように、PRという視点や考え方は当たりまえになってきているとのこと。日本人の性質上、議論にまで発展することはなかなか起きないかもしれません。しかし、「世の中の多くが共通していいね!と思う」という意味では、合意形成は起きています。話題にするばかりでなく、世の中とのリレーションをどうしていくのかという視点は今後、より重要視されていくでしょう。