元『カンブリア宮殿』プロデューサー 阿部謙一郎氏に学ぶ、人を動かすナラティブとストーリー設計の本質

第240回定例研究会レポート(2026年5月19日実施)

PRSJは、5月19日(火)に 第240回定例研究会「カンブリア宮殿に学ぶ、人を動かすナラティブとストーリー設計の本質」を開催しました。講師には、元「カンブリア宮殿」プロデューサー、Public Shaper Networks執行役員CCOを務める阿部謙一郎氏をお迎えし、企業の発表をいかにして社会のニュースへと昇華させるのか、鍵となる「ナラティブ」を設計する具体的なステップやPRパーソンが持つべき視点、視座などについてご講演いただきました。

講師略歴

阿部 謙一郎(あべ けんいちろう)氏

1972年生まれ。 共感から行動につながるナラティブ設計とストーリー構築の専門家。
産経新聞社にて12年間、社会部記者として取材活動に従事した後、2007年にテレビ東京入社。 「カンブリア宮殿」「ガイアの夜明け」などのプロデューサーを歴任し、企業や社会課題を題材にしたドキュメンタリー制作に長年携わる。
2026年3月よりPublic Shaper Networks執行役員CCO。 メディアで培った知見をもとに、企業の価値を社会に伝え、共感を起点に人々の認識や行動の変化につながるナラティブ設計とストーリー構築に取り組む。

ニュースだけでは人は動かない

阿部氏は、自身の新聞記者時代の原体験を紐解きながら、「そもそもニュースになるとはどういうことなのか」を提示しました。また、高崎競馬廃止問題の報道経験を通じ、事実のみを並べたストーリーではなく、その出来事をどう意味づけるかを語るナラティブが、人の心を動かす鍵であると説きました。さらに、テレビ東京での番組制作事例を紹介しながら、企業のニュースを社会課題と結び付け、共感を生むナラティブへと変換させるための視座とプロセスを解説しました。

経営者と社会の間に立つ「翻訳者」としてのPRパーソンの存在意義

阿部氏は、こうしたナラティブ設計を「クリティカル・ナラティブ」と名付けて体系化しようとしています。企業や経営者が語りたいことに寄り添うだけでなく、あえて批判的な視点を持って内向きの論理から抜け出すことで、はじめて社会課題と接続できるナラティブが生まれます。

また、「経営コンサルタントが経営者と同じ景色を見るのなら、PRパーソンは、経営者と社会との間の視点に立ち、企業の論理と社会の論理を翻訳することが役割なのではないか」と問いかけました。

ナラティブ設計は社会をも動かす技術

講演の後半では、PR全体のナラティブを考えるための4つのステップと、核心をつく問いが提示されました。経営者の言葉を客観視するためのアプローチや、ナラティブを立ち上げるために経営者から話を引き出すコツ、ストーリー設計の基本の順番など、PRの実務に明日から活かせる深い知見が次々と明かされました。阿部氏は、ナラティブ設計の本質を、単なるメディア露出の手段ではなく、社会の認識や制度をも変えうる技術であると定義し、「人は事実ではなく、意味で動く」という言葉で、講演を締めくくりました。

質疑応答

講演後の質疑応答では、実務に即した具体的な悩みが数多く寄せられました。
● 「WBS」「ガイアの夜明け」「カンブリア宮殿」それぞれのプロデューサー視点での作り方の違いは?
● ナラティブ強化のために第三者の視点を得たいとき、どのように人選するのか?
● ナラティブを設計するにあたって、事業側としては深掘りされたくないポイントもある。どのようにすり合わせるのか?
● 「ストーリーを描けるな」と思うのはどのようなプレスリリース?

まとめ

実はこの講演自体も、クリティカル・ナラティブのフレームワークに則って、阿部氏の人生を再構成したものでした。その舞台裏が明かされたことで、ナラティブによって心が動かされるとはどういうことか、多くの受講生が身をもって体感したはずです。
「経営者と社会、両方の景色を翻訳するのがPRパーソンの役割である」。その定義に、掲載獲得の先にある「社会を動かす」という真のミッションを感じ、背筋が伸びる思いがしたひとときでした。

文責:株式会社 井之上パブリックリレーションズ 白川 友里