BtoB企業のブランド戦略〜サイボウズ社の全社型ブランディングを学ぶ〜

第8回企業部会セミナー 開催レポート2026年7月2日実施

「第8回企業部会セミナー」は、2026年7月2日に「BtoB企業のブランド戦略〜サイボウズ社の全社型ブランディングを学ぶ〜」と題して、サイボウズ株式会社の高橋団氏を講師に迎えて開催しました。サイボウズがいかにして全社を巻き込みながらブランドを築いてきたのか。同社のブランドが表現されたオフィス見学から始まり、セミナー前半は講演、後半は企業部会メンバーとのクロストークでその核心に迫りました。当日のセミナーの模様をレポートいたします。

登壇者プロフィール

高橋 団 氏

サイボウズ株式会社 マーケティング本部 ブランディング部 サイボウズ式編集長

1996年神奈川生まれ。2019年に新卒でサイボウズに入社し、2026年からサイボウズ式編集長。編集視点で会社のブランドを作ることを目指し、近年はSNSや動画コンテンツにも注力。個人でフリーランスのデザイナー・アートディレクターとしても活動している。

講演のポイント

なぜブランディングに取り組んだのか

サイボウズ社は1997年創業、創業3年で上場した急成長の裏側でマーケティング上の2つの課題を抱えていました。ひとつはこれまでのプロモーションで得られていた効果の持続性が薄れてきたこと、もうひとつはIT担当者以外の一般層への認知が低かったことです。クラウドサービスの普及で顧客層が一気に広がり、既存ファンの高齢化も進むなか、「このままではいけない」と全社的なブランディングへの挑戦が始まりました。

高橋氏は、イノベーター理論とキャズム理論を手がかりに、市場の成熟によって届けるべき相手が変わることを説明しました。機能を重視し多少の不便は自分で解決する先端層に対し、一般層が重視するのは機能ではなく価値であり、変化を好まず、みんなが使っている安心なものを選ぶと語りました。そのうえで、従来のサイボウズのプロモーションは明らかに先端層向けであり、一般層に必要なのは「信頼感」だったと分析します。

② 足りなかった「ストーリー」と、それを伝える「編集力」

信頼感を構成する要素は、機能・評判・デザイン・ストーリーの4つです。サイボウズは市場シェアの拡大やデザインの刷新によって、機能・評判・デザインの3要素はある程度満たせていた。一方で、「なぜグループウェアを提供しているのか」という問いに答えるストーリーが欠けていました。そこで同社は、自社の働き方改革の過程で試行錯誤しながら培ってきた経験を資産と捉え、「グループウェアを売る会社」から「チームワークの会社」へと企業ミッションを再定義。パーパス「チームワークあふれる社会を創る」に込めたストーリーを発信しようと考えました。

ここで、高橋氏は、読者にとっての価値を乗せて伝える「編集力」の必要性を指摘しました。その担い手として当時の編集部が立ち上がり、オウンドメディア「サイボウズ式」が誕生。同メディアは2012年策定のコンテンツ方針「世の中の話題を追う/製品情報は扱わない」を今も貫いています。

③ 編集を起点にした発信が、成果につながる

自社における初の赤字決算を「赤字は本当にいけないことか」と問い直した記事、新卒初任給の引き上げを「自分たちの給料も上がりますか?」と問うた記事、働くママを描いたムービーなどは、他メディアやテレビにも波及しました。2024年度新卒採用では応募のきっかけの第1位が「サイボウズ式」となり、キャリア採用でもサイボウズ式や関連書籍がきっかけの上位を占めるなど、採用面でも即効性のある成果が表れているとのことです。 高橋氏は、成熟市場で大切なのは情報(インフォメーション)よりも感情(エモーション)であり、送り手の伝えたいことではなく受け手の視点で伝えること。指針とするのは、社会の関心と自社の取り組みを客観性の観点で架橋する「ブランドジャーナリズム」だと語りました。ありのままの姿勢を継続的に伝えることが信頼につながり、継続こそがサイボウズのブランディングの根幹だと締めくくりました。

クロストークと参加者からの質問

クロストークと質疑応答では、実務の関心に踏み込んだやり取りが交わされました。多くの質問に丁寧にお答えいただいましたが、ここでは、その一部を紹介します。

——「チームワークを売る会社」というストーリーは、どう社内で生まれたのか?

「離職率の増加が課題となったタイミングで、社長を中心に経営陣が社員の声に耳を傾け、働き方を変えたことで業績も回復した、その成功体験が原点にある。ヒアリングの積み上げというより、経営の意思決定に近いものだった。」

——「理想への共感」は、どうすれば得られるのか?

「共感の度合いは人それぞれでよい、という考え方をしている。向かう方向をゆるやかに合わせ、対話と議論を重ねることがポイント。」

まとめ

サイボウズのブランディングは、「自分たちは何者か」を問い直し、社内にすでにあった実践を誠実に語り続けてきた歩みそのものでした。手段は時代とともに変わっても、人が信頼するものは変わらない。社会とのつながりをデザインし、継続することが信頼を育てる。高橋氏のメッセージは、社会的価値の実現を追求するパブリックリレーションズの本質と深く重なるものでした。今回のセミナーは、企業広報に携わる参加者にとって、自社の「あり方」をどう伝え続けるかを見つめ直す示唆に富んだひと時となりました。

文責・佐々木小織(株式会社メドレー)