正解は「忘れられる会見」? 鈴木悠介氏に学ぶ緊急記者会見

緊急記者会見トレーニング 2026年7月9日実施)

PRSJは、2026年7月9日(木)に「緊急記者会見トレーニング ~『その一言』が、企業の命運を分ける。緊急時の対応力を実践的に身につけるシミュレーショントレーニング~」を開催しました。 近年、コンプライアンス意識の高まりやSNSの普及により、企業を取り巻くリスク要因はこれまでにないほど多様化しています。本トレーニングでは、法的視点を踏まえたメディア対応から、緊迫感のある模擬記者会見まで、実践的な危機管理広報のノウハウが共有されました。

講師略歴:鈴木 悠介(すずき ゆうすけ)氏

企業の危機管理対応に関して、業界・法分野問わず、豊富な経験を有する。
報道記者の経験をいかし、法務・コンプライアンス部門だけでなく、広報部門とも戦略的に協働しながら、国内外での贈賄、談合・カルテル、下請法違反、品質不正、営業秘密侵害・情報漏洩、会計不正、インサイダー取引、ハラスメント、労災事故等の各種危機管理対応に従事。

危機管理広報の分野では、適時開示・リリース作成、想定問答作成、メディア対応(個別取材、記者会見、バックグラウンド・ブリーフィング等)、インターネット・SNS上の誹謗中傷対策等、有事におけるトータルなサポートが可能。平時においても、危機管理広報マニュアルや不祥事公表基準の整備、模擬記者会見トレーニング、広報関連業務のリーガルチェック等の幅広いアドバイスを行う。案件に限らず、有事・平時の危機管理に関するセミナー・著作等の実績も多数。危機管理広報や組織風土改革に関して、オリジナリティー溢れる実践的なセミナーや体験型の社内研修に定評がある。

エンタメ化する不祥事会見と、成功を分ける「勘どころ」

前半の講義では、元報道記者であり、現在は弁護士として危機管理案件の最前線に立つ鈴木氏から、現代における危機管理広報の極意が語られました。

鈴木氏が強く警鐘を鳴らしたのは、現代の企業不祥事の会見が「エンタメとして消費されてしまう」リスクです。情報バラエティ番組などで誰もが気軽にコメントしやすい企業の不祥事は、切り取られてネットミーム化しやすいという恐ろしさがあります。こうした状況下で、鈴木氏は「記者会見で企業のダメージをゼロにすることは不可能」と断言した上で、「誰の記憶にも残らず、忘れ去られていく会見こそが本当の成功例である」と、意外な真理を提示しました。

では、大衆の記憶から忘れ去られるような「無難で完璧な止血策」を実行し、炎上を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。講義では、会見の成否を分ける「勘どころ」として、「誰に、何を、なぜ今伝えるのか」というメッセージ設計の重要性が解説されました。全方位に配慮した中途半端な発言の危険性や、記者との質疑応答で陥りがちな罠(議論してしまう、法律論で弁解してしまう等)など、実務に直結する生々しいノウハウが次々と投げかけられます。

さらに、実践的な「模擬記者会見」を社内で実施することの効能にも言及。「普段話し慣れている経営者ほど危ない」というハッとするような指摘や、映像を通して自らの対応の“癖”を知る本質的な目的、そして法務部門と広報部門の連携強化といった副次的な効果まで、企業が有事に備えておくべき具体的なアクションが提示され、受講者は自社の危機管理体制を見つめ直す機会となりました。

極限状態を体験する模擬記者会見と、プロの視点

後半のワークショップでは、参加者が企業の経営陣や広報担当者となり、緊迫の模擬記者会見に挑みました。

今回用意されたシナリオは、トランスジェンダーの従業員に対する社内でのアウティング(本人の同意なき情報暴露)と、それが引き金となった痛ましい事案です。初動対応の遅れからSNSで大炎上し、不買運動の危機に直面する中、記者会見に追い込まれるという、ビジネスと人権の観点からも極めて現代的でリアルな設定でした。

登壇者役の受講生たちは、次々と飛んでくる記者役の受講生からの容赦ない追及に対し、矢継ぎ早に判断し言葉を紡ぐ極限状態を体験しました。終了後の鈴木氏からの講評では、参加者の振る舞いに対する鋭い指摘が次々と飛び出します。

例えば、会見の冒頭で「お集まりいただきありがとうございます」と述べることの是非。法的リスクを負いかねない「重大な過失」といったNGワードの落とし穴。あるいは、専門用語(性的指向と性自認の違い、「ソジハラ」など)を正しく理解せずに発言してしまう恐ろしさなど、実践でしか気づけないポイントが浮き彫りになりました。

また、「事案と被害の因果関係をどこまで認めるべきか」「批判をかわすために第三者委員会の設置を安易に約束してよいのか」といった究極の選択に対しても、企業を守るための視座が提示されました。 そして鈴木氏から改めて強調された最大の教訓は、「この会見は、誰に向けて一番のメッセージを届けるべきものなのか」という「獲得目標」のブレが、致命的な結果を招くということでした。

質疑応答

トレーニングの最後には、参加者から実務に直結する切実な質問が数多く寄せられました。

  • 社内通報窓口が機能していなかったという不都合な事実は、会見の冒頭で自ら説明すべきか、それとも質問されてから答えるべきか?
  • 誠実さを示すために、あえて自社の対応を厳しく責めるようなネガティブな表現を使う作戦は有効か?
  • 記者会見の場で「第三者委員会の設置」や「後日の再報告」を約束させられそうになった場合、次への期待値(ハードル)をどのようにコントロールすべきか?

まとめ

「『その一言』が、企業の命運を分ける」。このセミナーのタイトルが決して大げさではないことを、参加者全員が肌で感じる濃密なプログラムでした。 ビジネスと人権への意識が高まる今、危機はいつ自社に降りかかるか分かりません。知識を得るだけでなく、実際に極限のプレッシャーの中で言葉を発する「体験」を経ているかどうかが、いざという時の企業の存続を左右します。自社のリスクマネジメント体制に不安を感じる方や、より実践的な危機管理対応を身につけたい広報担当者にとって、「実際に体験しておかなければ危険だ」と痛感させられる時間となりました。

文責:株式会社サニーサイドアップ 和久裕哉