広報経験者の経営術 ~アシックス・廣田会長 国際セミナー登壇~

国際セミナー(2026年4月13日実施)

2026年4月13日、国際・交流委員会は、大手町・住友商事(株)にて国際セミナー「アシックスの経営改革と、広報について」を開催しました。登壇いただいたのは、(株)アシックス代表取締役会長CEOの廣田康人氏です。三菱商事(株)で広報としてのキャリアを築き、その後アシックスの経営を担ってこられた廣田会長から、経営と広報の関係について示唆に富んだお話が展開されました。

広報責任者からシューズメーカー経営へ

廣田会長は三菱商事に入社後、広報部報道チームリーダー、広報部長、代表取締役常務執行役員(コーポレート担当)などを歴任されました。その間には、ペルーの日本大使公邸人質事件や総会屋事件、アメリカ同時多発テロなど、危機対応の現場も数多く経験されています。そうした中で2018年にアシックスに経営トップとして転身。代表取締役社長COO、同CEOを経て2024年からは代表取締役会長CEOとして経営全般に注力されています。ご自身でもランニングを続けられ、ケニアの高地で走った際の写真も披露されました。

経営と広報の近さを生かす

廣田会長は、経営から見た広報の肝は「トップとの距離感」にあるといいます。トップは孤独であり、社内で何でも率直に話してもらえる立場ではない。だからこそ、社内外で起きていることを広く知る広報が、話し相手となり、信頼関係を築いていくことに意味があるのではないか。広報は単なる情報発信の担当ではなく、経営に近いところで役割を果たす存在であると強調されました。

トップメッセージを会社の力に

また、廣田会長は広報出身ならではの感覚で、言葉を重視してきたことがうかがえるエピソードも披露されました。

アシックスが経営改革を進めるなかで、「負けっぱなしで終われるか。」「こんなもんじゃない。」「脚をとめるな。」「駆け抜けろ、可能性。」といったメッセージを毎年掲げ、今年は「あの日々を、強さにかえていけ。」というメッセージを広告等で発信されています。こうした言葉は顧客やユーザーに届けるだけでなく、社内に向けても「いま自分たちはどういう局面にいて、どう進むのか」を指し示す役割を果たしているとのことでした。

危機管理が広報を強くする

前職・三菱商事における危機管理広報の経験がいまの経営にも生きているというお話もありました。危機管理は、何か起きた時だけの対応ではなく、物事を楽観せず、最悪を想定しながら考える姿勢そのものにつながっていると強調されました。危機に対する感度や、外からどう見られるかを意識する視点は、会社を守る実務であると同時に、経営判断の土台にもなっていると語られました。

質疑応答では、広報の果たすべき役割に関する質問が相次ぎました。そのなかで廣田会長は、「世間一般に向かって開かれた窓として外を見ているのは広報であり、だからこそ外からどう見えるかを社内に持ち込む役割がある。一方で、広報が飾り付けをしすぎて前に出すぎるのも違う」と回答されました。

まとめ

アシックスは6月10日、世界的人気を博する「オニツカタイガー」事業の分社化を発表しました。新会社でも会長に就任する廣田氏のもと、アシックスはさらに変革を続け、世界に挑み続けています。社内での接点を広げるため、同氏が社長在任中に隔週更新のブログを始めたことも紹介されました。今回のセミナーは同社の歩みを通じて、経営と広報の関係性と、組織を動かす言葉の役割の重要性を改めて考える機会となりました。

文責:国際・交流委員 土屋 和樹