早稲田大学 産業経営研究所 共催フォーラム レポート

2026年1月19日、早稲田大学国際会議場 井深大記念ホールにて「日本におけるパブリックリレーションズ(以下PR)の歴史と今後の展望」が開催されました。この早稲田大学産業経営研究所主催のフォーラムは、(公社)日本パブリックリレーションズ協会が共催し、電通PRコンサルティングの協力により実現したものです。4名の登壇者の発表をご紹介するレポートの後編で2名のセッションをご紹介します。
「『誤解から』読み解くPRの世界史」
上智大学 准教授 国枝 智樹 氏
PRの定義は数多く生まれ、刷新されています。私自身もプロジェクトに関わりましたが、日本広報学会は新しい広報の概念を策定し、2023年6月に発表しました。

また今年の1月には、英国のPR業界団体PRCAも新しいPRの定義を発表しています。PRは相互理解を促進する業界ですが、実はその従事者ですらうまく説明ができない。社会との相互理解や信頼獲得というキーワードはあるものの、100年たっても常に新しい定義が出てきて、理解されていないとしたら、それはPR史最大の皮肉ではないでしょうか。本日はPRという考え方が時代とともにどう議論されてきたか、歴史的な文脈と共に考えていきます。
米国においてPRはどのように誤解され、語られてきたのか
PRという言葉の前身として、19世紀のアメリカで「プレス・エージェントリー」という言葉が出て来ます。当時は新聞が強い影響力を持っていたため、掲載されるために都合の良い話をしたり、嘘をついたりということが横行していました。よって「ちょっと怪しい」というイメージがついてきます。政府も警戒を強め、税金を用いてパブリシティの専門家を雇うことを原則禁止しました。米国政府では現在でもパブリシティやPRという言葉を避け「パブリック・インフォメーション」や「プレス」を使う伝統が残っています。
パブリシティに関する意見は、「広報の父」とされるアイビー・リーやエドワード・バーネイズの間でも分かれています。前者は、自社の考えや立場を世論に理解できるかたちで翻訳し、同時に世論を自社へと翻訳し返す営みのことであり、単なる隠ぺいや言いくるめではない、と説きました。一方で後者は、パブリシティは単に注目を集めるための一方向性の情報伝達である、対してPRカウンセルは双方向的であり、計画的に望ましい結果や世論を形成する役割を担うもので、企業経営の意思決定にも関わることができるとしています。
1950年代になると、書籍販売や団体プロモーション、印刷業に至るまで、PRと称して様々な仕事をする人が増えました。70年代には戦術的なニュアンスを持つPRの枠を超えた「コーポレートコミュニケーション」、2000年代以降には広告やマーケティングも含む「戦略コミュニケーション」等、新しい言葉やその使い方が現れては歴史を塗り替える。PRの担い手自身が混乱を巻き起こしている、という現実もあるのが興味深い特徴です。
ほかの国ではどうか。誤解とは何か。この100年が何を意味するのかを考える。
PRという言葉がアメリカから本格的に西側諸国に広がったのは、第二次大戦のあとと言われています。国によって状況が違いますが、発展してくるのは経済や民主化が進んでからです。翻訳のされ方は多様で、たとえば東欧諸国では「人々との関係」というニュアンスに寄ってマネジメントの側面が抜け落ち、フランスではパブリックリレーションズをフランス語にしただけのものなのですが、報道対応やイベント運営のイメージが強い。中国では「公共关系(公共関係))」という言葉が用いられており、「情報操作や隠ぺいといったネガティブなイメージに加え、メディアだけでなく政府との関係性も含めた複雑さを帯びています。ドイツでは「公衆のための・公衆の中での仕事」という意味の言葉を充て、公共空間を想定したイメージが強く、それに伴ってメディアリレーションズに焦点がおかれました。イギリスには1920年代にアメリカから「PR」が入ってきているのですが、どちらかというとメディア対応の意味で使われています。
こういった国際比較から「訳語や言葉の解釈が間違っていた」「PRを正しく理解できていなかった」「PRは民主主義社会で会話を重視する米国の文化的背景を前提としている」といった話があがってくるのですが、そうでもないようです。
100年にも渡って「PRのPR」がされていながらいまだ理解されていないということは、そもそも「正しいPR」があると考えること自体に無理があるのかもしれません。誤解されやすいことを前提に社会に説明し、理解を促すべきなのかもしれません。こういった誤解の議論についても今後取り組んでいく予定でいますので、もしご興味があればぜひご参加ください。
これからの日本のPR ― 「PR4.0」が示す企業コミュニケーションの新たな方向性
株式会社電通PRコンサルティング エグゼクティブフェロー
井口 理 氏

企業を取り巻く社会環境が大きく変化する中、パブリックリレーションズ(PR)の役割も大きく進化しています。従来のように情報を発信し認知を広げるだけではなく、企業が社会課題に向き合い、多様なステークホルダーと共創しながら信頼を築くことが、これからのPRには求められています。こうした考え方をまとめたのが、2024年に出版した『PR4.0への提言』です。本講演では、その内容をもとに、これから企業が目指すべきPRの姿について紹介します。
PRは「情報発信」から「社会との共創」へ
PRの国際的な評価基準である「バルセロナ原則」は、時代とともに進化してきました。初期のPRの役割は、情報がどれだけ広がったかという「露出」が重視されていました。その後、この「バルセロナ原則」が制定され、「認知」の先の結果、すなわち人々の意識や行動が変化したかという成果が重要とされました。さらに2020年の「バルセロナ原則3.0」では、社会にどのようなインパクトを与えたかまでが重要視されるようになりました。そして2025年に公表された「バルセロナ原則4.0」では、企業がステークホルダーと共に社会課題の解決に取り組み、社会的価値を共創することが不可欠な要素として位置づけられています。これは、私たちが提唱してきた「PR4.0」の考え方とも一致しています。
ブランドアクティビズム ~沈黙を貫く企業姿勢は危険~
近年、商品やサービスだけでなく、「企業は何を信じ、どのような社会を目指しているのか」が問われるようになっています。この考え方を表すのが「ブランドアクティビズム」です。人権、環境、ジェンダー、多様性、ガバナンスなど、社会的な課題に対して企業が明確な姿勢を示し、行動することが企業価値につながる時代になっています。
例えば米国では、政府の移民規制強化が打ち出されたとき、配車サービス企業大手2社の対応が大きく分かれました。片方の企業は移民規制強化への反対姿勢を明確に示したことで利用者から支持を集め、もう片方の企業は業界の動きを無視して自社のみ通常営業を続けたためユーザーからボイコット運動が起こり、業績に大きな影響が出たと言います。日本の企業では、こうした社会問題が発生した時に、沈黙を貫く企業が多いかもしれませんが、現在は、それが通じない状況にあると思います。社会で起きた課題に対して、即座に自分たちがどういう姿勢を取るのかが問われる時代になっていると考えられます。
ソーシャルコミットメント ~社会課題への取り組みが企業価値を高める
もう一つ重要なのが「ソーシャルコミットメント」です。これは単なる社会貢献活動ではなく、自社の事業と結び付いた社会課題に継続的に取り組み、その成果を社会と共有していく考え方です。現在、多くの生活者や従業員は、企業が社会課題に積極的に取り組むことを期待しています。世界的な調査「Edelman Trust Barometer」でも、企業には行政以上の実行力が期待されており、企業への信頼や倫理性に対する評価も年々高まっています。
また、当社シンクタンク「企業広報戦略研究所」の魅力度ブランディング調査でも、社会課題への取り組み「イシュー対応」が最も重要な企業の魅力要素となっています。さらに、社会的価値への評価が高い企業ほど、投資意向や就職意向が高まるという結果も得られています。社会的価値の向上は、企業イメージだけではなく、採用、投資、さらには中長期的な企業成長にもつながる重要な経営資産となっているのです。
PRは経営そのものを支える機能へ
マーケティングも近年、ステークホルダーとの共創を重視する方向へ変化しています。そのため、PRとマーケティングはこれまで以上に密接な関係となり、企業の信頼づくりがブランド価値や事業成長を支える重要な基盤になっています。
パブリックリレーションズという良い関係づくりは、マーケティングに大きく貢献するはずです。これらはほぼ表裏一体の形なのではないかと思います。ものを売るためにも、社会課題に取り組む姿勢が貢献していることを理解して、経営層にもうまくアプローチしていただければと思います。

その後、登壇者全員と会場参加者との活発な質疑応答がなされ、無事に閉会となりました。
今回のフォーラムをきっかけに、今後もパブリックリレーションズの発展に向けた議論が活性化されていく事を期待します。
文責:広報委員会
株式会社井之上パブリックリレーションズ 塚田 真己
株式会社電通PRコンサルティング 阪井 完二