第237回定例研究会:2025年9月30日実施
NHK中村直文氏に聞く、報道と広報の信頼構築とは
2025年9月30日に開催された会員限定講座「第237回定例研究会」では、NHK報道局ニュース制作センター「おはよう日本」部長・中村直文氏を講師に迎え、NHKが放送とデジタルの両輪で情報発信を進める節目の時期に、ニュースとドキュメンタリーそれぞれの現場で培われた知見を共有いただきました。広報委員有志メンバーが当日の講座の模様をレポートします。

講師略歴
NHK 報道局ニュース制作センター「おはよう日本」部長
中村直文(なかむら・なおふみ)氏
1969 年生まれ。福岡出身。報道番組のディレクターから、クローズアップ現代統括、NHK スペシャル事務局長を経て現職。担当番組はNHKスペシャル「マリナ アフガニスタン・少女の悲しみを撮る」(2003年/イタリア賞大統領賞ほか)、「トラック 列島3万キロ」(04年/放送文化基金番組賞ほか)「メルトダウン連鎖の真相」(12年/文化庁芸術祭大賞)、「未解決事件 File.05 ロッキード事件」(15年/東京ドラマアウォード優秀賞)、沖縄戦・全記録(15年/新聞協会賞)、「LAST DAYS坂本龍一最期の日々」(24年/欧州ローズドール賞ほか)など。
放送とデジタルの融合が拓く“公共メディア”の新しい伝え方
前半では、NHKのニュース制作体制や番組ごとの役割分担を軸に、報道現場の仕組みや考え方が紹介されました。朝・昼・夜それぞれのニュース番組が担う「伝える目的」の違いを踏まえつつ、生活者の意思決定に寄り添う「おはよう日本」の編集姿勢や、経済報道の工夫が語られました。
その中で、2025年10月から始まった「NHK ONE(ワン)」にも言及がありました。
NHK ONEは、これまでテレビ、ラジオ、ウェブなどに分かれていたニュースや番組情報を一体化し、放送とデジタルの垣根を越えて“同じ価値で伝える”ことを目指す新サービスです。視聴環境の変化を踏まえ、放送とデジタルを両輪に「届かない層」を減らす——公共メディアとしての実装を進める姿勢が示されました。
デジタルにも軸足を置く時代のニュース編集の在り方は、広報担当者にとっても今後の情報発信のヒントとなる部分が多く、参加者は熱心にメモを取っていました。
後半では、NHKスペシャルをはじめとするドキュメンタリー制作の現場に話題が移り、単なるニュース報道とは異なる“時間をかけて描く表現”の価値について語られました。
中村氏は、自身が手がけた番組「にんげんドキュメント/シドニーへ、女たちの闘い」(2000年放送)を例に、当時のシドニーオリンピックでマラソン代表選考会に挑むアスリートたちの葛藤や、その舞台裏を追った取材過程を紹介。当時の制作の裏側や、取材現場で直面した苦労などが語られました。
舞台裏を描く取材の背後には、チーム関係者や企業広報との信頼関係の積み重ねがあったことにも触れられ、報道と広報がお互いのスタンスを理解し合うことで生まれる信頼関係の大切さを実感させるエピソードとなりました。

質疑応答(テーマ抜粋)
- 地域拠点経由での情報提供ルートと企画化のされ方
- 健康・機能性素材の報道で求められるエビデンス水準
- AI時代における広報の役割と留意点
- 「NHK ONE」における番組編集の変化 など
取材後記
今回の講座で印象的だったのは、中村氏の「大切な情報は、最後は“人”からしか得られない」という言葉でした。どれだけデジタル化が進んでも、信頼できる人とのつながりがあってこそ、ネット上にはない価値ある情報にたどり着ける。そして、その関係を築くうえで欠かせないのが、日頃からの誠実なコミュニケーションと信頼の積み重ねだと感じました。
AIや生成ツールの普及、リモートコミュニケーションの拡大が進む中で、本講座のように対面で学び合い、関係を深めることの意義を改めて実感する時間となりました。
文責:(株)井之上パブリックリレーションズ 馬宮 洋人