「こだわり」を、みんなの「推し」に変える戦略会議

関西委員会 第301回定例会開催報告 2026年7月22日実施

~クラフトビール人気の背景から考える、社会と響き合うパブリックリレーションズ~

関西委員会第301回定例会では、株式会社CRAFT BEER BASE(以下クラフトビアベース)代表取締役社長・谷 和(たに あい)氏(以下:谷氏)を講師に迎え、日本におけるクラフトビールの歴史、業界の現状と構造的課題、地域との関係性、今後の可能性について学びました。

あわせて本定例会では、単なる講演聴講にとどまらず、PRパーソンの専門的視点から、クラフトビアベースが地域の人々にとって「特殊な場所」から「地域にあって当たり前の存在」へと育っていくために、PRがどのような役割を果たせるのかを参加者とともに考えることを目的としました。

講演後には醸造所見学および試飲を行い、クラフトビールづくりの現場を体感したうえで、ライブセッション形式による意見交換を実施し、地域住民との関係づくり、観光客との接点、価格面の課題、情報発信のあり方、シビック・プライドとの接続などについて、パブリックリレーションズ(PR)の観点から多面的な議論が交わされました。当日の様子をレポートします。

講師のプロフィール

株式会社CRAFT BEER BASE 代表取締役社長
谷 和 氏

谷氏は、2006年日本地ビール協会認定のビアジャッジ資格を取得、2012年にクラフトビアベースを創業。クラフトビアベース代表取締役社長として、大阪市北区を拠点にクラフトビールの製造、販売、飲食、流通、教育に関わる事業を展開する。

また、業界団体の活動や国際的な品質審査員(現在10か国)としての活動を通じ、日本のクラフトビール業界全体の発展にも関わっている。

クラフトビアベースという社名には、「クラフトビールの基本を伝える」という思いが込められている。同社は、単にクラフトビールを販売するだけでなく、ビールの品質、楽しみ方、選び方を正しく伝える教育的・啓蒙的な役割を担っている。

講演のポイント

①クラフトビールを「正しく広める」活動

クラフトビアベースでは、クラフトビールを単なる流行や嗜好品ではなく、品質や文化、楽しみ方を正しく理解し、自分に合う一杯を選ぶためのものとして広める活動をしています。クラフトビールは多様なスタイルを持つ一方、種類の多さが消費者の選びにくさにもつながるため、その複雑さを整理し、選ぶ楽しさへ変えることが普及の鍵だといいます。

②クラフトビール業界の現状と構造的課題

日本の小規模醸造は、1994年の酒税法改正を機に「地ビール」として広がりましたが、技術や品質管理の教育不足などからブームは沈静化しました。2010年代には、米国発の自由な発想や多様な味わいを特徴とする「クラフトビール」文化が定着しました。2018年以降は、法改正やローカル志向、補助金を背景に醸造所が増え、現在は1,000を超えています。一方、市場シェアは1~2%台にとどまり、飲用文化の定着や業界全体の価値向上が課題です。

③地域に根ざす醸造所のあり方、日本ならではのクラフトビールの可能性

谷氏は、ドイツの格言「ビールは煙突の見える場所で飲みなさい」を紹介し、醸造所は地域のランドマークや交流拠点になるべきだと説明しました。クラフトビアベースは、大阪市北区大淀で地域の記憶に残り、街の顔となる醸造所として「街のサイズに合う醸造所」「街の顔になる存在」を目指しています。広域から集客するだけでなく、地域の暮らしに自然に溶け込む存在を志向しています。

また、米や麹、日本酒酵母、地域食材を用いた日本独自のビールの可能性にも触れ、ビアツーリズムや輸出によって、輸出や観光、地域振興に生かし、需要と経済循環を生むには、醸造技術の向上に加え、経営力や販売力、地域との関係づくりの重要性が示唆されました。

パブリックリレーションズの可能性を議論したライブセッション

醸造所見学と試飲の後、谷氏を交えてライブセッションが行われました。議論は予定時間を超えて続き、参加者からPRの専門的な視点による意見や提案が寄せられました。中心となったのは、クラフトビアベースが「知る人ぞ知る店」や愛好家の訪問先にとどまらず、地域住民にとって「あって当たり前の存在」になるために、パブリックリレーションズが果たせる役割です。

議論を踏まえ、以下の取り組みが有効だと考えられました。

  1. 地域住民との接点づくり
  2. 「街の顔」としてのブランドストーリー発信
  3. 観光資源としての導線づくり
  4. 初心者に伝わりやすい情報設計
  5. 点在する活動のキュレーション

まとめ

関西委員会第301回定例会では、クラフトビールの歴史や現状、地域との関係について学びました。業界は醸造所数や品質面で成長する一方、消費者理解や価格、地域への定着、経済循環の仕組みづくりに課題があることも示されました。

「街のサイズに合う醸造所」「街の顔になる存在」を目指すクラフトビアベースの姿勢は、PRの可能性を考えるうえで重要です。ライブセッションでは、参加者がPRパーソンの視点から、同店が地域にとって「あって当たり前の存在」になるために、何を伝え、誰と関係を築き、どのような接点を設けるべきかを議論しました。地域住民との関係構築やシビック・プライドの醸成、観光資源化につながるPRの役割を実践的に考える有意義な機会となりました。

担当・來栖 暁(オカダアイヨン株式会社)
前野晃男(株式会社堀場製作所):文責
篠原真由美(千寿製薬株式会社)
稲葉美香(学校法人近畿大学)