ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS × PRアワード2026

2026年7月14日、「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」のPR部門で審査委員長を務める伊東由理氏と、「PRアワード2026」の審査委員長を務める田上智子氏による鼎談が行われました。
聞き手は、博報堂でクリエイティブとPRを統括する嶋浩一郎氏です。
田上氏は、事業会社出身でカンヌライオンズやスパイクスアジアの審査経験を持ち現在は独立、伊東氏は事業会社で広報を担いながら、PRアワードの審査員も経験してきました。異なる立場からPRの仕事を見てきた3人の議論は、二つのアワードの審査方針にとどまらず、現在のPRに求められている力へと広がっていきました。
カンヌで語られた、三つの言葉
鼎談は、2026年のカンヌライオンズを振り返るところから始まりました。
日本からの参加者は多かった一方、PR部門では日本の作品がショートリストに残らなかったとのこと。海外で評価された仕事をめぐる議論では、「大胆さ」「ユーモア」「胆力」といった言葉が繰り返し登場しました。
その一例が、輸送中のKitKatが大量に盗まれるという危機に対応したネスレの取り組みです。盗難を公表し、商品の製造番号から正規品かどうかを確認できる仕組みを提供することで、消費者を巻き込みながら流通への信頼をつくりました。
興味深いのは、いきなり大掛かりな仕組みを始めたわけではない点です。
まずユーモアを含んだ発信を行い、生活者の反応を確かめ、その反応を材料に社内の合意をつくりながら次の施策へ進んだといいます。
大胆さだけでなく、反応を見ながらまずは小さく始め、関係者を巻き込んでいく。田上氏が2026年のPRアワードで掲げる「Wise Bravery(賢勇)」を象徴するようなプロセスです。
PRアワードが重視する「賢明な勇敢さ」
PRアワードでは、「Strategy」「Idea」「Execution」「Impact & Results」という四つの基本的な審査基準を設けています。

田上氏は、それらを貫く2026年の視点として「Wise Bravery」を掲げました。単に大胆な企画であることではなく、課題の本質を見定め、社内外の合意をつくりながら一歩を踏み出す姿勢です。
あわせて重視するのが、企業や団体がその課題に取り組む必然性を示す「オーセンティシティ」、多様な関係者と社会の動きをつくる「マルチステークホルダーとの共創」、そして、PRの新しい地平を切り開く「パイオニアシップ」です。
PRアワードは、目を引くキャンペーンだけを評価する賞ではありません。
前年には、能登半島地震に関わる活動(「PRパーソンの未来予測を、災害対応に応用 『能登半島地震 命を守る災害対応リアルタイム広報』」)がグランプリに選ばれる一方、ユニークなクリエイティビティを生かした活動(道頓堀 金龍のしっぽプロジェクト)も高く評価されました。行政、インターナルコミュニケーション、地域や社会に根差した取り組みなど、パブリックリレーションズの幅広い実践に光を当てることが、PRアワードの特徴といえます。
既存の方法を丁寧に積み重ねた活動と、これまでにない方法へ踏み出した活動。その両方を見ながら、今年ならではのPRの兆しを見つけ、言葉を与えることも、アワードの役割として語られました。
クリエイティビティは、関係性にも宿る
一方、ACCのPR部門では、クリエイティビティを最上位の概念に置いています。
伊東氏は、審査で重視する観点として、「Innovative Framing― その手があったか!」「 Strategic Fit― なぜそれか? 」「 Meaningful Impact― 何が生まれた? 」の三つを挙げました。

「その手があったか」という言葉からは、斬新な表現や企画を想像するかもしれません。しかし、鼎談で語られたクリエイティビティは、それだけではありませんでした。
誰と誰をつなぐのか。
どのタイミングで働きかけるのか。
反対意見を持つ人と、どのように対話するのか。
既存のものを、どのような視点から捉え直すのか。
伊東氏は、人との関係性の編み方や、ものの価値の再定義にも、PRのクリエイティビティが表れると話します。
嶋氏からは、反対意見との対話によって企画を磨き、より多くの人が参加できる形へ自己修正していくことが、PRの特徴ではないかとの指摘もありました。
田上氏も、マルチステークホルダーを巻き込む力はPRパーソンに欠かせないとしたうえで、このような対話力や自己修正力は、経営においても重要になっていると語りました。
二つのアワードは異なる角度からPRを評価していますが、話題になったかどうかだけを見ているわけではありません。
なぜその企業や団体が取り組んだのか。誰と関係をつくり、どのような合意を生み、社会や事業に何を残したのか。今回の鼎談では、そうしたプロセスまで含めて評価しようとする姿勢が共通していました。
アワードへのエントリーを、学びの機会に
鼎談の後半では、事業会社のPR担当者がアワードに参加する意義についても話が及びました。
かつては、アワードというとエージェンシーのクリエイターが応募するもの、という印象もありました。しかし近年では、事業会社からのエントリーや審査への参加も増えています。
田上氏は、アワードの審査を通じて、自社とは異なる考え方や手法に触れ、それを社内に持ち帰れることが大きな学びになったと振り返りました。
また、伊東氏は、アワードへのエントリーを「過去の実績を未来の資産に変える行為」と表現しました。
エントリーシートを書くのは、決して軽い作業ではありません。自分たちが何を課題と捉え、なぜ取り組み、誰を巻き込み、どのような結果を生み出したのか。日々の仕事のなかでは分散していた判断や工夫を、改めて言葉にする必要があります。
だからこそ、その過程自体が活動の棚卸しになり、組織の知見として残ります。

受賞を目指すだけでなく、ほかの活動から学び、自分たちの仕事を捉え直し、次の実践につなげる。今回の鼎談からは、アワードをPR業界全体の学びの場として活用してほしい、という両審査委員長のメッセージが伝わってきました。
「PRアワード2026」は、8月20日からエントリー受付を開始し、10月13日が最終締め切りとなります。
自社の取り組みのなかに、まだ十分に言葉にできていない工夫や挑戦はないでしょうか。アワードへのエントリーは、それを見つけ、社会に共有し、未来の活動へつなげる機会にもなりそうです。
文責・PRSJ広報委員会 副委員長/合同会社 kipples 日比谷 尚武