株式会社ベクトル 取締役副社長
吉柳 さおり 氏

早いもので、暦は3月を迎えました。3月は多くの組織にとって一つのサイクルの締めくくりであり、同時に新たな挑戦へと向かう準備期間でもあります。窓の外に春の気配を感じるこの時期、私たちは改めて「PR(パブリックリレーションズ)」という仕事の本質と、その未来について思考を巡らせる絶好の機会に立っています。
生成AIの急速な普及やデジタル・プラットフォームの進化は、私たちの実務に劇的な効率化をもたらしました。情報はかつてない速度で生まれ、拡散され、そして消費されていきます。しかしその一方で、「信頼の構築」にかかる時間は決して短縮できないという現実も痛感しています。むしろ、情報が氾濫する時代だからこそ、送り手と受け手の間にある「信頼」の重みは、確実に増しているのではないでしょうか。
PRの核にあるのは、常に「組織と社会との良好な関係構築」です。メッセージを届けること自体が目的ではありません。双方向の対話を通じて、社会の声を汲み取り、自らの姿勢を問い直し、時に軌道修正しながら共感を育てていく。この泥臭くも誠実な営みの積み重ねこそが、ブランドや組織のレジリエンスを形作ります。私は、PRとは「信頼を設計し続ける仕事」だと考えています。
不確実な社会情勢が続く今、広報・PR担当者の役割は「情報発信のゲートキーパー」から「経営の羅針盤」へと進化しています。社会は何を求めているのか。自社の活動は社会にとって誠実か。短期的な認知向上だけでなく、長期的なレピュテーションを見据えた意思決定を支える存在でありたい。そのためにこそ、AIには代替できない「文脈の理解」と「感情への洞察」が、私たちの「PRプロフェッショナル」としての価値になると確信しています。
日本パブリックリレーションズ協会の活動が、会員の皆様にとって学びや刺激となり、それぞれの現場での実践を一歩前に進めるきっかけとなれば幸いです。新しい季節が、皆様にとって、そして皆様が向き合う社会にとって、より豊かな対話と確かな信頼に満ちたものとなることを、心より願っております。