人的資本経営の重要なファクター
働き方の多様化やESG経営の浸透、そして2023年3月期決算から有価証券報告書を発行する上場企業約4000社において、人的資本に関する情報の開示が義務化されたことを背景に、多様な人材を企業成長の源泉として捉える「人的資本経営」の重要性が高まっている。この人的資本経営を推進する上で、特に重要なファクターが「DEI」だ。
DEI とは
DEI は「Diversity, Equity, and Inclusion」の略で、日本語では「多様性、公平性、包摂性」と訳される。これは、性別、年齢、人種、障害の有無など、多様なバックグラウンドを持つ人々を尊重し、全ての人が公平に扱われ、誰もがその環境に受け入れられ、参加できることを目指す取り組みを指す。
DEI 推進により、従業員一人一人の能力を最大限に発揮させるとともに、優秀な人材の定着や新たなイノベーション創造にもつながると考えられており、多くの企業が積極的に取り組んでいる。
DEIA、DEIB とは
DEI に Accessibility(アクセシビリティ)が加わったものが DEIA である。アクセシビリティとは、全ての人が物理的、情報的、社会的な障壁なく環境にアクセスできるようにすることを意味し、特に障害のある人々が平等に参加できるよう支援や環境の整備を行うことを指す。米国では、DEIA の原則をあらゆる業務に組み込むことを連邦政府機関に求めるなど国家戦略として位置付けられている。一方日本では、国家戦略の枠組みではないものの、アクセシビリティに関連する法整備が進展。2024年4月の改正障害者差別解消法の施行に伴い、これまで努力義務とされていた「合理的配慮の提供」が民間企業において義務化されたことが記憶に新しい。
また、DEIB の Belonging(所属感)は、人々がその環境で受け入れられ、自分の価値や存在が認められていると感じることを意味し、「心理的安全性」に近い語といえる。DEI 推進における障壁の一つは、DEI をどこか人ごとのように感じられがちな点。Belonging が加わることで、個人に焦点が当てられ、自分ごととして捉えやすいメリットがある。DEIB に注力する企業は日本でも増加傾向のようだ。
未来をひらくDEI
このように企業や社会にとって、一人一人が強みを発揮し活躍するためには、DEI(DEIA、DEIB)の推進が不可欠。また、今後さらに多くの企業で、人的資本に関する情報開示が求められるようになっていくだろう。DEIの取り組みを社内外へしっかりと表明し、発信していく必要性がますます加速していくに違いない。
執筆=岡内礼奈(株式会社電通PRコンサルティング)