事業主体:株式会社On-Co
エントリー会社:株式会社On-Co
想いに寄り添い健全な関係性を築くことで、地域や人に新しい価値を生み出す「さかさま不動産」。
目的はビジネスではなく、不動産流通の新しい形を作り、社会をよくすること。
肝はまだない需要、価値観、仕組みを浸透させるPRの視座と戦略だった。

貸す気も売る気もない非流通空き家
深刻化する空き家問題。総務省によると、2030年には二次的利用や賃貸・売却予定のない長期不在の住宅は470万戸程になると推計されている。また国交省「空き地等に関する所有者アンケート」によると、9割近くの所有者は情報公開に抵抗があると回答したものの、うち約半数は「借り手や使途によっては貸すことも考える」というデータも出ていた。
実際我々のところにも「情報公開はしたくないがよい人がいたら貸したい」「文化的な使い方を望む」「地域が活性化する人に貸したい」といった、空き家所有者(以下、大家)からの相談が多く寄せられていた。
愛着のある大切な家
代々受け継がれた大切な家は、「自分の代でどうするのか?」といった意思決定が難しく放置されがちだ。我々はここに空き家問題の本質があると捉えた。大家が、その土地、家、地域を未来に託せるのか?に寄り添う必要があると考え、方向性を課題視点ではなく、まちづくり視点のポジティブアプローチに定めることにした。
貸す人を選ぶことで地域が元気になる
さかさま不動産は、家の情報ではなく「借り手」の情報を開示して、共感する大家とマッチングするサイトである。従来の不動産流通の仕組みを逆にすることで、「貸す人や使途を選びたい」「物件情報を公開せずに借り手を探したい」と考える非流通空き家の大家の希望を叶えるのはもちろん、チャレンジ精神を持つ人を地域に誘致する際の有効なシステムとしても役立っている。現在では、「劇場をつくりたい」「楽器アトリエがほしい」などの想いも掲載されている。
事象の質にこだわる戦略
情報設計は弊社代表陣が空き家活用をする中で感じた原体験(着想)を軸に展開。マッチングは質のよさを追求し、大家が借り手を選ぶことにより地域活性化に繋がる流れや、互いの人生を豊かにした過程など、「そういう関係っていいな」という物語を景色にして魅せていった。また得られたフィードバックは、社会の視座として、サービス設計や経営方針に組み込みブラッシュアップ。社会には事象から汲み取る世相を伝え、“関わりしろ”を作ることで、意識・行動を変容させるパブリックリレーションズを丁寧に進めていった。
異なる情報入手ルート
大家はシニアが、借主は若者が多く、情報入手ルートが異なる。そこで、借主層にはSNSや口コミを活用。ネット世代ではない大家層には新聞やTVを使って情報を発信したほか、行政のお墨付きを重ねたり、自治会の回覧板までを狙った。
メディアとは、我々の言葉の伝わり方を確認する機会と捉えて、情報が届く先の行動を見据えて企画から話をし、よい報道を共創する関係性を構築。情報が届き、興味を持ってくれる人たちには、毎月説明会を開いて反応を吸い上げていった。
地域連携へ
さらによいマッチングのためには、地域の風土や課題を理解した人のネットワークが必須であると考えて、ノウハウを無料で提供する「支局」を展開。志に賛同する全国の自治体などから手が挙がり、現在は宮城県から鹿児島県の離島まで、15ヶ所の支局が開局されている。開局時には、PR講座を開き、ステークホルダーとの関係構築の視点を共有していった。
このように、さまざまな地域を横断したことで、「空き家は多いが借りられる空き家がない」という
全国の共通課題も露見した。
唯一性の高い事業へ
3年半が経ち、自治体をはじめ各地域が欲している非流通空き家の活用相談と、地域に影響を与えるかもしれない借主が集まるようになった。社会にない挑戦だからこそ、貴重な情報が集まる仕組みがで
き、唯一性の高い事業へと成長しつつあるのだと感じている。
現在では、幅広い地域との連携・協業がスタート。全国1,788の自治体と取り組める可能性が視えてきた。
とはいえ、たったの24件
これまで、24件のマッチングを通して、地域に新たな文化や仕事が生まれている。
「皆様お気づきだろうか?なんと3年半頑張って、たったの24件である」
それでも拡がった土台には、関係性構築というPRの本質があると思っている。
PRの視差が必須
我々は、短絡的なビジネスで解決しにくい課題が、社会課題として残ったと捉えている。
社会課題に新しいやり方で挑むには、1社のビジネスモデルに依存せず、対等かつ共に考える多種多様な仲間を作ることが近道である。またサービスを通して社会から得るフィードバックをヒントに、質とは何か、価値はどこかなど、常に事業を問い、経営者(事業者)と共に議論し、サービス設計や経営方針に反映させ、変わり続ける循環を作るのがPRの機能として重要と感じている。
現在、株式会社On-Coでは、さかさま不動産で実証できた要素を活用し、海洋汚染やごみ問題、教育格差など、多くの社会課題、そして他社の取り組みにも介入している。
社会をよくするための新たな概念を広げるには、PRの手法を大前提として組み込み、自分たちも変わり続けることが必須だと確信している。

VOICE OF STAFF
「PRはアピールやSNS発信の事でしょ」と単なる発信機能と捉えている人にたくさん遭遇します。その度に「PRはパブリックリレー
ションズで関係性づくり」と伝えてきました。何をメッセージとして発信するのか。得たフィードバックをどう生かすか。社会が感じてい
る価値はどこか。自社にとって質とは何か。中長期的に考え、経営者(事業者)と議論し、サービス設計や経営方針に反映させていく
ことが肝と感じています。常に事業を問い、変わり続ける循環を作るPRの機能が、もっと社会に実装されていくのが楽しみです。
株式会社On-Co 取締役 PR事業部 統括 福田 ミキ
COMMENT by JUDGE
価値を逆転させる発想で、業界のあり方を変えるアウト・オブ・ボックスな挑戦は、実は緻密なPR戦略の設計によって実現している、ソーシャル・インパクト、PRの技術、事業主体や関係者の熱量の三拍子そろった取り組みである。“はじめにビジネスモデルを作らない。物語をつくればモデルは後からついてくるはず”という受賞者のメッセージは、PRの新たな地平を感じさせた。最終的な成果として経済価値をどう生むのかという課題は残るが、審査員全員一致のグランプリ選出は、発想の転換によるPRの新たな可能性に対する期待値である。