「Business Insider Japan」伊藤編集長が語る、AI時代の経済ニュースと広報コミュニケーションの最適解

第241回定例研究会:2026年7月10日実施

2026年7月10日に開催された第241回定例研究会は、Business Insider Japan ニュース編集長 伊藤有氏が講師として登壇されました。テーマは「AI時代の経済ニュースと広報コミュニケーション」。AIの急速な社会実装やメディアのデジタルシフトが進む現代において、企業とメディアをつなぐ広報コミュニケーションのあり方も大きな転換期を迎えています。講演では、変化するメディアのワークフローやこれからの広報担当者が持つべき視点などを、現場の実情を交えてお話しいただきました。

講師略歴

Business Insider Japan ニュース編集長 伊藤 有(いとう たもつ)氏

大手IT出版社のPC/IT週刊誌で、ハードウェアからWebサービスまで、BtoCテクノロジー全般を主に活動。Webメディアの立ち上げ、ITイベントの運営なども手掛ける。

その後、米国発のオンライン経済メディア「Business Insider Japan」の日本版立ち上げメンバーとして参画し、2020年1月に編集長に就任。近年はAI/ディープラーニングの産業利用の発展を注視している。

講演内容

伊藤氏は、Business Insider Japanのメディアプロフィールや反響の大きかった特集を紹介しながら、同編集部が重視している指標について解説されました。

Business Insider Japanは、立ち上げ当初からページビュー(PV)よりも記事の質の高さと反響、会員登録といった「読者の深いエンゲージメント」を重視しており、その傾向はコロナ禍以降、さらに顕著になっているとのことです。読者に響く「量より質」のコンテンツが、結果としてメディアの価値を高めている点を、広報側も理解する必要があります。

急速に普及するAIは、メディア自体や広報とのコミュニケーションにも大きな変化をもたらしていると伊藤氏は言います。

AIツールは記者の取材をサポートする側面がある一方で、AI検索や要約機能の普及によって、ストレートニュースをただ追う価値は薄れつつあります。メディアは、自分たちの読者に届く、その媒体にしか出せない独自性や視点を重要視しています。広報側としても、AI検索や要約機能の台頭を意識しつつ、「企業独自の文脈や社会的意義」を提示することが重要であると指摘しました。

さらに伊藤氏からは、メディアと企業がより良い関係を築くための実務的なアドバイスをいただきました。

近年はWebメディアでも動画とテキストの相互補完が進むなど、アウトプットの形が多様化しています。日々大量の情報がメディアに届く現代だからこそ、記者が「この広報からの連絡ならぜひ対応したい」と思えるような、個々の記者やメディアに寄り添ったコミュニケーションが不可欠です。

質疑応答

講演後の質疑応答では、聴講した広報担当者から、実務に即した具体的な質問が数多く寄せられました。

  • ニュースが少ないBtoB企業や特に目立ったニュースがない平時において、メディアが求める情報提供やアプローチはどうあるべきか。
  • 独自性のある記事を設計するにあたって、それらは編集部側の問題意識から立ち上がるのか、それとも企業広報側からの情報提供やアプローチがきっかけになることが多いのか。
  • 採用広報やオウンドメディアを運営するにあたって、どのような情報発信やランディングページの設計を行えば、学生や若者に信頼して読んでもらえるのか。
  • 自社や業界における「不祥事や危機管理事案」が発生した際、広報担当者としてどのようなタイミングでメディアに連絡を入れ、どのような情報開示を行うべきか。

まとめ

本講演を通じて示されたのは、AIやデジタル技術の進化、ワークフローがどれほど変化しても、最終的には「人と人との誠実な信頼関係と、ファクトに基づいた情報」が重要であるということです。

Webメディアが量から質へとシフトする中、メディア側は「なぜ今、これを世の中に伝える必要があるのか」という社会的意義を見極めています。だからこそ広報担当者にも、自社都合ではない「第三者視点」を持つことが求められています。

平時から記者の関心や文脈に合わせた丁寧なコミュニケーションを重ね、地道に信頼関係を築いていくこと。変化の著しい時代だからこそ、原点に立ち返る重要性を再確認させる機会となりました。

文責:井之上パブリックリレーションズ 岡崎有紀子