アワードで問われる真の成果と社会的インパクト

電通PRコンサルティング 井口 理 氏

アワードエントリーをクライアントとの真摯な向き合いの機会に

月日の流れるのは早いもので、すでに一年の半分を過ぎ、そろそろ年末に発表されるPRアワードへのエントリーを考え始める時期となりました。たった2ページのエントリーシートに、膨大な時間と工夫と努力を詰め込んできた「我が誇るべき仕事」を書き込めというのですから応募者にとっては納得のいかないところもあるでしょう。しかし一方で、良き仕事というのは誰もが一言で理解し、また人にも伝えやすいものでなければならないのかもしれません。

ところで、業界内のアワードと聞くと、その手の方々がこれまでの経験を背景に、業界の歴史も鑑みながら「業界の通念を超えた仕事」「業界人だからこそわかる微細な工夫」を表彰するものと思われがちです。しかし現在ではPRに留まらず、コミュニケーション全般は設定したゴールにいかに近づけたかが問われる時代です。長年業界にいそしんで来ていると手法の目新しさにときめくことはあるものの、「なんのためのコミュニケーションなのか」を紐解けば、それは目的に向けた実質的な成果を得るためであり、ある意味瞬間的な話題になったとしても、それをやったこと自体に満足していては本末転倒となりかねません。

このような実成果軸の評価が海外アワードでも当然となって久しく、また当PRアワードでも事業会社からの審査員の招聘強化に伴い、事業会社から見たリアルなビジネス成果とはなんぞやの議論を経て各エントリーを評価できるようになったのは良き潮流かなと思うところです。

「当たり前を粛々と。」も評価したい

落語に型があるように、PRにも基礎となるフレームがあります。それは従来のメディアリレーションズとか特徴的な個別手法の話ではなく、課題設定から目的へと歩むプロセス、それに併走するPR思考といったところでしょうか。タイムリーな課題設定による世の中の関心喚起から始まり、口の端に乗せやすいメッセージ構築と理解およびシェア促進、ひいては生活者の共感を醸成し共にゴールを目指す仲間づくりの機会創出など。そしてそれらのプロセスを経て紡ぎ出される成果に辿り着くわけです。

実はこれらステップがエントリーシートに記すべきことであり、恐らくみなさんのお仕事の中でしっかりと踏襲されている事柄でもあると思うのです。そのため、「この仕事ではなんら新しいことが達成できていない。目新しい手法も盛り込まれていない」などとエントリーを忌避するよりも、まず一度ご自身のお仕事をこれらの視点でなぞりながらエントリーシートに要素を落とし込んでみることをオススメしたいのです。そうすればきっと、自身の仕事もエントリーに値する価値を持っていることがわかってくるはずです。例えそれが従来手法を踏襲したやり方であったとしても、課題に対する道筋としてそれが最適解なのであればそれは評価されるべきで、もちろん審査団はその評価軸をきっと忘れずに議論してくれるはずです。

グローバルアワードのクライテリアに変化。より深いクライアントとの協働体制を推進すべし

一方、昨今感じるグローバルアワードを含めた評価視点のトレンドが2つ。これは押さえておきたいポイントでもあります。まず一つ目は、エージェンシー目線でなく、事業会社(クライアント)にとってその仕事が真に評価されているものなのかということ。業界、エージェンシー目線で「これはよくやったね」という仲間内の視点ではなく、そもそもなんのためにやるのかという事業会社が求める成果へどこまでコミットできているのかが重要です。これ、まさに先の申し上げたところと重なりますよね。

もちろんこれまでも成果部分で認知度や売上貢献などの数字は示されてきましたが、実際のところそれが事業会社側が求める文脈としっかり合致する形で達成されているのか、またそのプロセスにおいてエージェンシーのプランが事業会社側に共有され、一丸となって取り組まれたものなのか、いわば真のパートナーシップがそこに築かれているかが見られるようになってきているのです。やっている側からすればそこまで突っ込んでくるのは余計なお世話だと思うかも知れませんが、これは恐らくコミュニケーション業界からの事業会社に対する真摯な姿勢の表れだとも思うのです。結果を出せば、そのやり方は任せておけというブラックボックスは今や許されません。しかし両者が胸襟を開き、オープンなスタンスで課題に取り組んでこそ真の成果に向かえますし、それが社会を動かす要諦なのだと業界が悟ったからこその視点なのではないでしょうか。

細かなところで申し上げれば、カンヌライオンズなどのセミナーでもエージェンシーが単独で登壇するよりもクライアントと肩を並べてプレゼンするシーンが増えており、あるいは現地でのリアルタイム審査でのプレゼンも両者が揃って行うべきといった不文律ができあがってきてもいるようです。

成果は社会への影響にまで言及すべし

もう一つのトレンドとして数年前から成果において「Impact」というワードが入るようになったということ。それまでは「Results」あるいは「Real Results」と書かれていたパートが「Results&Impact」と併記されるようになったことです。先にも述べた事業会社が求めるビジネス成果と併せて、「社会に対しどのような影響を生み出したのか」が求められるようになったのです。自社の利益のみならず、社会へコミットするスタンスを持ち、様々な事業活動において社会的役割を果たせという示唆、これは昨今の社会課題解決への企業の積極的取り組みを促す指針に沿ったものでもあるでしょう。

その視点から実は行政からのPRアワードへのエントリーも増えているのをご存じでしょうか。奇しくも昨年のグランプリは石川県の災害時のリアルタイム広報という取り組みが受賞、その内容も災害時に悪影響を及ぼすSNS上のデマ対策であったり、職員の方の過重労働による自殺の未然防止活動など。ベーシックながら確かに必要という各種対策をしっかりと課題予測しプライオリティを付けて実施したその実行力に審査員の評価が集まったわけです。

行政もお決まりの仕事はありつつも、市民の意向を捉えつつどこに比重を置き対応すればその支持を獲得できるのかを考えながら活動するのが重要なポイントなのは間違いありません。ポピュリズムまで行かないものの、市井の意志を汲み取りながら活動する姿勢は企業や行政に関わらず、今や支持や応援を取り付けるための必須要素と言えるのかも知れません。

最後に

長々と書いてしまいましたが、「そんなの当たり前だよ、自分もその視点で仕事してるよ」と感じたならこちらの思う壺にはまったも同然。

さあ今からPRアワードのエントリーシートにメモを始めてみてください。

アワード云々よりも、ご自身の仕事を振り返ることで「自分って結構いい仕事してるじゃん」と自画自賛してみるのもたまにはいいものだと思いますよ。