AI時代におけるPRの役割――ナラティブを起点に信頼を築く

株式会社本田事務所
代表取締役/PRストラテジスト 本田 哲也 氏

生成AIの進化により、情報の生成や発信は飛躍的に効率化されました。私たちは今、かつてないスピードで情報を扱うことができる一方で、「どの情報に意味があるのか」「何を信じるべきか」を見極める難しさにも直面しています。情報があふれる時代だからこそ、その背後にある文脈や意図をどのように捉えるかが、これまで以上に重要になっているのではないでしょうか。
こうした環境の中で、パブリックリレーションズに求められる役割は大きく変化しています。私は、これからのPRの本質は「ナラティブを起点に価値を創出すること」にあると考えています。

ナラティブとは、単なるストーリーではなく、組織の価値観や経験、社会との関係性に根ざした「意味のある語り」です。それは外から作り上げるものではなく、組織の内側にある歴史や意思、積み重ねの中から掘り起こされるものでもあります。またナラティブは、「何を語るか」だけでなく、「何を選びどのように行動するか」という意思決定の基準としても機能します。

AIは情報を整理し、瞬時に最適化する力に優れていますが、主体や経験に裏打ちされた文脈を創出することは(今のところは)得意ではありません。

だからこそPRパーソンは、組織の内にあるナラティブを見出し、その意味を社会との対話の中で共有し、ともに育てていく役割が求められます。一方的に発信するのではなく、社会との共創を通じて形づくられる営みです。さらに言えば、ナラティブは語るだけでは成立しません。語りと行動が一致してこそ、初めて信頼が生まれます。短期的な注目やエンゲージメントを追うのではなく、長期的な関係性を見据え、組織としての一貫性を保ち続けることが、これからのPRにおいてますます重要になると感じています。

その意味において、PRの役割は「情報発信の担い手」から、「ナラティブを設計し、意思決定と行動を支える存在」へと進化しています。まさに経営や事業と不可分であり、組織の信頼を中長期的に育む存在です。

日本パブリックリレーションズ協会は、こうした変化の中で、PRの専門性を高め、実践知を共有する場として重要な役割を担っています。多様な立場の会員の皆さまとともに学び合い、それぞれの現場での実践に還元していくことが、業界全体の価値向上につながると考えています。