開催レポート:2026年1月29日実施

2026年、日本とオーストラリアは「日豪友好協力基本条約」署名から50周年という大きな節目を迎える。経済・安全保障における戦略的パートナーシップが進化する中、その根底を支えているのは「人」と「文化」の交流。
今回の国際・交流委員会では、在日オーストラリア大使館を訪問し、国家ブランディングの視点、国民的スポーツAFL(オーストラリアン・フットボール)が仕掛ける驚異のコミュニティ戦略、そして「多様性と自由」を掲げるワインマーケティングについて、実技体験やテイスティングを交えながら、五感で学ぶ機会となった。
単なる情報発信を超え、いかにして「熱狂」と「信頼」を日常の中に醸成していくのか。
PRの本質に迫るセミナーの模様をレポートする。

▼登壇者
・オーストラリア大使館公使(商務)、北東アジア統括ジェネラル・マネージャー マーガレット・ボーエン
・オーストラリア大使館 広報担当参事官 ベック・アレン
・日本オーストラリアンフットボール協会 普及・育成部 榊道人
・Wine Australia ローズマリー マクドナルド
生活導線への介入と「良き隣人」としてのブランディング

全体を通じて語られたのは、PRを「遠くの誰かへの宣言」ではなく「日常の接点作り」と捉える姿勢である。アレン参事官が紹介した「讃岐うどんの小麦の90%が豪州産」「日本のビジネスタイム(8時間分)の電力は豪州資源」というエピソードを通して、いかにオーストラリアと日本が身近な関係性を築いているのかを痛感した。
また、PRの核として「現代オーストラリアの多文化アイデンティティ」を据え、2032年のブリスベン五輪を見据えた「グリーン・アンド・ゴールド・デケード(Green and Gold Decade)」を推進。スポーツや食を通じ、多様な文化背景を持つ人々を巻き込む「参加型」の外交戦略が示された。
AFLに学ぶ「日常」から「熱狂」を生むコミュニティ設計
榊氏による特別講演では、人口2,700万人の国で年間800万人以上を動員するAFL(オーストラリアンフットボール)の驚異的なPR戦略が明かされた。その核心は、徹底した「日常への浸透」にあるという。
AFLでは生活導線への介入が重要な戦略の一つである。

プロチームが公園や市民プールといった公共施設でトレーニングを行い、ファンだけでなく一般住民との接点を意図的に創出している。また、BBQグッズやキッチン用品など、家庭内のあらゆる場面にロゴ入りのグッズを販売することで、AFLのチームを日常生活の一部にしている。

加えてオーストラリア独自の「ヘルススター・レーティング(食品の健康指標)」を使い、クラブが地域住民向けに栄養教室を実施。選手が普段参考にしている情報を共有することで、住民の健康リテラシー向上に貢献し、「地域にとってなくてはならない存在」としての地位を確立しているのだ。
選手はメディア対応だけでなく、ファンに対し自ら「学校はどうだった?」と話しかけるような親密なコミュニケーションの訓練を受けている。スターを神格化するのではなく、「近所のお兄さん・お姉さん」というロールモデルとして位置づけることで、強い情緒的な絆を築いている。こうして人々の生活動線に入り込む戦略を実施することで、熱狂的なファンを生み出すスポーツとなっているのだ。
オーストラリアワインの「自由」と「信頼」のマーケティング
続いてマクドナルド氏より、オーストラリアワインの特徴である伝統に縛られない「多様性と自由」についての講演があった。
オーストラリアワインの特徴として欧州のような厳格な規定が少ないため、気候変動に合わせて地中海品種へ挑戦するなど、革新的なワイン造りが可能である。一方で、厳しい輸出検査と、劣化リスクの低いスクリューキャップの普及(ほぼ90%)により、「安心・安全」というブランドの信頼性を担保している。

イタリアやベトナム、そして日本など多様な食文化が共存するオーストラリアでは、食事に寄り添う「高い酸味・低アルコール」のスタイルが進化している。日本市場では、ターゲットを25〜54歳に絞り、B2B(飲食店)を軸にしながら、SNSやインフルエンサーを活用して「Discover Wine」キャンペーンを展開。2025年の大阪・関西万博を見据えた関西圏でのプロモーション強化など、戦略的なアプローチが紹介された。

まとめ:体験が信頼を醸成し、コミュニティを熱狂させる
今回のセミナーで浮き彫りになったのは、オーストラリアの「厚みのあるPRとその重要性」の部分であると感じた。単に情報を発信するのではなく、スポーツの実技、教育支援、地域住民との交流、そしてワインのテイスティングといった「実体験」を通じて、参加者からは、
「AFLが行っているファン作りやその魅力を知ることができた」
「改めてオーストラリアと日本におけるビジネスの可能性を感じることができた」
などといった声があり、PRSJの山口氏は閉会挨拶で、「コミュニティへの入り込み方など、PRのプロとして学ぶべき点が非常に多かった」と述べた。2026年の日豪友好協力基本条約署名50周年に向けて、両国のコミュニケーションは今、大きな節目を迎えている。
今回のセミナーを通してそれは一方的なプロモーションではなく、「生活導線への介入」と「良き隣人」としてのブランディングが融合した、より親密な関係性への進化であると感じた。

文責・(株)サニーサイドアップ 柳井さくら子