デリスキング

新たな経済・貿易の概念

デリスキングとは、カタカナで書くとリスキリング(学び直し)と紛らわしいが、英語の de-risking のことであり、地政学において、リスクの低減を図りながら経済的な相互依存関係や協力関係を維持していくことを意味する概念である。

この概念は、EU(欧州連合)の内閣に当たる欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が、2023年3月に中国と協調関係を維持しながら過度な依存は避けるという対中経済関係の方向性を示したことから注目された。

デカップリングからデリスキングへ

2017年に発足した米国・トランプ政権では、中国との協調関係ではなく、対抗・競争を行うべくデカップリング(切り離し)の政策を進めた。具体的には、エンティティリスト(禁輸企業リスト)を作成し、中国のハイテク企業の切り離しを進めた。これにより、2019年には通信機器大手が米国
市場から排除された。日本政府も歩調を合わせたことから、中国のハイテク製品は徐々に締め出され、各通信キャリアの5G基地局は中国製以外の機器で構築されている。

2021年に発足したバイデン政権では、極端なデカップリングではなく重要分野以外では協調するというデリスキングを進めている。サプライチェーンを過度に中国に依存する生産体制からの脱却や、中国への先端技術(先端半導体やその製造装置など)の流出防止を図りながらも、経済においては協力を継続していくことを目指す動きとなっている。

しかし、これは建前であり、日本などの同盟国からの調達やサプライチェーンの構築を目指した「フレンドショアリング」も提唱されており、これを実直に進めた場合、必然的に中国を締め出すこととなる。

求められるしたたかな活動

中国では反スパイ法の改正で取り締まりが強化されるなど、引き続き、海外企業にとってのビジネス環境は厳しいものとなっている。しかし、日本にとっては、貿易相手国シェアは中国が米国よりも高く(20%対15% 財務省 2023年貿易統計)、米国主導のサプライチェーンに完全にシフトすれば、経済的に行き詰まることは明白である。日本や日本企業は、米中としたたかに付き合いながら、自国の経済や経済安全保障にとって最適な選択を行うことが重要である。

執筆=許 光英(株式会社電通PRコンサルティング)