広報・PRで豊富な経験を持つ人たちに聞く「あなたにとって広報の仕事とは?」。

最初に話を聞いたのは、PR会社/事業会社、そして日系企業/外資系企業のそれぞれで広報業務の経験を持つ松尾崇さんだ。
Airbnb Japan 広報部長 松尾崇さん

広報経験23年。電通PR(途中、東京五輪招致委員会に出向)でPRコンサルタントとして経験を積んだ後に、サムスン電子、Netflixを経て、現在はAirbnbの広報部長を務める。そんな松尾さんは率直に言う。

「仕事の95〜98%は思った通りにならないです」

どれだけ準備をしても、メディアの反応は意外な方向に進むし、まず社外に向けて発表するまでの調整自体が長い道のりだ、ということらしい。

それでも、「広報は、コントロール出来る仕事ではないが、マネージは出来る仕事」だと捉えている。23年の仕事の中で、あらかじめどういう内容になるかを聞いたり、事前に見せてもらうようお願いしたことは一度もないと話す。

2つのキーワード

「Perception change (認識を変えること)とBehavior change (態度変容)の両方をめざすことが多かった」と振り返る。広報は単に話題になればいいものではなく、記事が出たことで直接どれだけ売れたかは測れない。そのため、広報でいかに経営にインパクトを与えるかを心がけてきた。その観点でも、広報の役割として重要なキーワードが、この2つだと話す。

現在勤めるAirbnbと言えば、新たな宿泊の形を作り出してきた存在だ。従来の「旅行代理店に行けばいい」から、「Airbnbではこんな素敵なところに泊まれるんだ」に向けて、”旅の体験”でPerception changeとBehavior changeに取り組む。

ただ、新型コロナウイルスの影響で、現在のAirbnbはたいへん厳しい状況にある。グローバルで25%のレイオフを実施し、日本も例外ではなかった。

しかし松尾さんは、下を向いてはいない。

「マーケティング費用もない。それでも出来ることはいっぱいあるし、いまコミュニケーションズ(広報部門)に対する期待はものすごく強い。旅は必ず力強く戻ってきますよ」。

幸い、広報の重要性や継続性について、上からの理解を得られていることもあり、短期的なゴールよりも長期的なゴールに向かって打ち込める環境だと言う。


正解のない仕事

PRの仕事を始めたばかりの頃、大手外資系金融機関がゴルフ場を買収し、リブランド事業の仕事を担当した。当時はまだクライアントのことを十分に理解出来ておらず、ある大手経済新聞社の記者にこう言われた。

「お前では分からん。担当につないでくれ」

この時に、PRの仕事は、担当した仕事の分野で一番詳しい人間であるべきという信念が芽生えたと振り返る。

いわゆる広告費換算は5年以上しておらず、また「記事がいくつ得られたかは、自分のパフォーマンス指標には入れてない」。ただ、「それが意外と一番難しいし、確かに悩んではいます」と打ち明けた。

その上で、「正直、目に見えない成果はいっぱいあるはずだと思うし、今こういうデジタルの時代だからこそ、(逆に)目に見えることが全てじゃないと常々思うんです」。そこで強く意識するのは、「オンラインに載っていることが全てじゃないという感覚を失いたくない」ということ。

言い換えれば、固定化された成果を追い求めている訳ではなく、その時その時の最適解を模索し続けている、ということのようだ。

「広報の仕事は、正解を求めてはいけない。最初から正解はない」と松尾さんは断言する。そこで思い出したように飛び出たのが冒頭の発言だった。

完璧なんて無理なものだから、そのプロセスを楽しみ、いかにそこに至る自分を楽しむかを大切にしていると話す。

松尾さんは昔からスポーツが好きだった。社内でもそれが認識されていたこともあり、PR会社時代からスポーツ関連の仕事に多く携わってきた。一緒に仕事をした一流のスポーツ選手たちからも大きな刺激を受けてきたと言う。

若い人たちに向けてのアドバイスを求めると、「どんなことでも無駄はないので、学ぶ精神さえあれば後々の仕事に活きると僕は思う」。そして、「自分の好きなことや得意なこと、興味のあることに対して旗を上げ続けること。好きなことをずっと言い続けていると、そういう仕事がまわってくる」と話してくれた。

松尾さんに聞いた「広報で大切なこと」は?

「会社のことを好きでいること。頼まれなくても語りたくなるようになってほしいです」

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