物語を欲して

公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会
理事 上岡典彦

 

年初にあたり仕事を進める上での2つのKeyWordを定めた。
「Empathy(共感)」と「Collaboration(協力・連携)」である。
言うまでもなく、コミュニケーションにおいて共感の重要度は益々高まってきている。論理、理屈ではなく、人が動く最大の感情は共感と言えよう。
またグローバル化が加速し規模の経済が重視される時代では、一人の力、一企業のパワーで物事を成し遂げるようとすることは困難で効率も悪い。それゆえ同じ志を有する仲間とのコラボレーションが必要となる。
そして、共感、協力を得るために大事なことは、近年PRの世界においても注目されている「Story(物語性)」だと考える。ひとを魅了する物語を語ることによって共感が生まれ、仲間を得ることに繋がる。
いきなり趣味の話になるが、私は映画館で毎月10本の映画を観ることを長年続けている。
昨年は125本、今年も1~2月で22本を楽しんだ。週末は他の趣味である登山や家事(晴れた日の布団干しが至上の喜びです)に充てたいので、ウィークデーの仕事後に観ることが多くなる。
再度話は飛ぶが、学生時代は放送研究会というサークルに所属してラジオドラマなどのシナリオと演出を担当していた。その勉強のために放送作家協会の理事であったサークル顧問に勧められ、同協会が運営しているシナリオ教室に週2回通った。その教室で著名な脚本家から「映画は映画館で観なさい」と教えられたことを、それ以来30年以上守り続けている(ひとつの言葉が私の一生に影響を及ぼし続けている。言葉の力はなんと強いものか!)。
先生曰く、「ソファに寝転んでチップスをつまみながらDVDで見る映画も良いが、暗闇で見知らぬ他人に囲まれた緊張感の中で、大画面に向かうことで初めて製作者が込めた思いを感じることができる」。
仕事後に19時からの上映、あるいは21時からのレイトショーに間に合うように銀座や渋谷の街を疾走している。正直そのために心身の疲労は増し、もはや趣味を楽しんでいるとは言えないのでは、と自問することも多い。
ではそこまでしてなぜ映画を観るのか?
それは私の実生活が「物語」に渇き、心が強くそれを欲しているからだ。
館内が暗転するまでは、さっきまでの仕事を引きずり明日の段取りに捉われているが、一旦本編が始まると以降は無の2時間であり、私に流れ込んでくる「物語」にただただ身を任せている。
私は映画を観ることで、世界の歴史を学ぶ。流行の変遷を辿る。政治・経済の課題を教えられる。剥き出しの感情に恐怖する。そしてまだ見知らぬあなたに出会い、ここにはいない私を知る。
一生かけても体験できない、いくつもの人生に心と体を震わせる。
それゆえ、物語を求めて今宵も映画館に走る。

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